第13話男1名、女4名

「と言う訳で高坂さんを紹介しなさいよ」


居酒屋会議は終了した。俊哉の彼氏かどうか見定めるためである。


「まさか断ったりしないよね」


「先輩は多分大丈夫だよ」


俊哉はそう答えた。実際、4人の事を聞いて先輩は興味を持っていた。


「なんたって4人も同時に採用したんだから会長も大胆な人だな」


先輩はそう言っていた。


「田宮の友人にも会ってみたいな」


以前にもそう言っていた。


「じゃあ先輩に聞いてみるね」


居酒屋会議は終了した。


翌日。


「先輩、実はご相談が」


「何だ?」


「実は同期の子が先輩に会ってみたいそうです」


「同期と言えばジェンダーの人達かい?」


「はい、そうです」


断られるかもしれないと思っていた俊哉だが意外な反応が先輩から帰って来た。


「じゃあバーベキューでもしようか」


「先輩、本気で言っていますか」


「俺はいつでも本気だぜ」


バーベキューセットはいつでも使えるように車に積んであると言う。


「先輩は本当に不思議な人ですね」


「俺は食べ物の好き嫌いは有るが人間の好き嫌いは無いんだ」


嬉しそうに言う。


「じゃあ食材の調達をしないといけないな。具体的な日取りと段取りは田宮に任せるよ」


果たしてあの3人と先輩を会わせて良いものだろうか、俊哉は悩んだが、先輩は会う気満々である。


「じゃあ日取りが決まったらお伝えしますね」


「楽しみだな、期待しているぞ、田宮」


翌日のお昼休み、いつもの屋上。


「あら、バーベキュー、良いじゃない。賛成」


加奈子は嬉しそうに言った。涼子も彩も賛成した。


「じゃあ海辺でバーベキューなんて良いじゃない?」


海に入るのはまだ早い。しかし5月の空気でするバーベキューも悪くない。


「じゃあ、俊哉、先輩に伝えておいてね」


うん、わかったと俊哉は言った。先輩は喜ぶだろうな。


「オウ田宮。決まったか」


「はい、来週の土曜日ならみんな暇だそうです」


「よし、決まりだな」


「海を見ながらバーベキューをしたいそうです」


「よし、任せとけ」


先輩は嬉しそうだ。しかし俊哉には一抹の不安があった。あのアクの強いメンバーに先輩はやられないだろうか。家に帰ってSNSで3人に連絡を取った。


「私達も何か持ち寄らない?」


加奈子はメッセージを送って来た。


「じゃあビールが良いんじゃない」


うん、ビールなら無難かな。


「酒くらいしか考えられないわね。でも高坂さんが飲めないわ」


彩が言った。


「それで良いのよ、高坂さんは飲まないでしょ」


「まあ、私達は手ぶらで良いのよ。好意に甘えましょ」


なんとも都合の良いメンバーである。


「バーベキューなんて何年ぶりかしら」


「私、した事無いわ」


「盛大に盛り上がりましょう」


ここまで意見が一致した。


「じゃあ集合場所はどうしようか」


「適当な駅で良いんじゃない?」


「そうね、1人づつ車で拾ってもらうのも手間だわ」


適当に駅を決めた。全員が使う駅だ。


「服はどうしようかな」


「紫外線は私達の敵よ」


「日焼け止めで良いんじゃない?」


「買いに行かないといけないわ」


涼子がぽつんとメッセージを送って来た。


「私達が日焼け止め使うなんて珍しいわよね」


そう言えばそうだ。どことなく私達は人目を気にしている。実際、堂々としている仲間は少ない。どこかしら負い目を持っているからかもしれない。


「まあ、楽しみにしておこうじゃない。高坂さんには頑張ってもらいましょう」


先輩は喜んで準備しているだろうな、と思うと特別気を使うでもなく、素直に楽しめば良いんじゃないかと俊哉は思った。




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