第54話総務部がとんでもない事に
2月。そろそろ新入社員の話題になる頃である。主任である浩一郎もその話題に
「なんですって?同性愛者が総務部に配属ですか」
声を上げたのは課長だった。気苦労の多い役職である。浩一郎は部長に質問した。
「同性愛者と言ってもゲイ、レズビアンとありますがどちらですか」
「両方採用が内定で決定している。例によって多様化を押し進めるためだ」
会長も自由な人だな、と浩一郎は思った。
「しかし特別配慮も必要無いのかもしれませんね」
係長が言った。確かに性的指向が同性が好きなだけで別段配慮も必要ないのかもしれない。
「どうやら面接で言ったらしい」
「カミングアウトと言うやつですね」
「高坂君、そうだ。ただ今まで前例が無いために事前に対応策を共有しておく必要がある」
このやりとりは俊哉が配属された時と同様である。浩一郎は難しい事は無いと思っている。
「情報は無いのですか」
「情報はゲイ、レズビアンが1人づつ総務に配属されるという事だ」
「しかしどう紹介しましょうか。彼はゲイですと言う訳にもいかないですし」
「自分で言うくらいだから自己紹介で言うんじゃないか」
「田宮君とはまた違う扱いになりそうだな」
管理職と言うものは難しいものである。ただ職場で座って判子を押しているだけではない。常に部員の把握をしないといけない。俊哉の場合も、他部署と連携して対応に工夫をした。本人達が気が付かない裏側で配慮しているのである。
「高坂君、何か意見は無いかね」
「当事者としては本人に会って判断するしかないですね。あまり難しく考える必要は無いかと思います」
とは浩一郎は言ったものの、無責任な発言だと思った。それでは問題の解決にならない。
「我々も同性愛者についてもっと理解を深めないといけないな」
「しかしながら不安面もあります」
係長が発言した。
「もし部員が恋愛対象になったらどうしましょうか。可能性はあると思います」
「まあ、そうなったら当人たちに対応を任せるしかないな」
それもまた無責任な発言である。
「高坂君、君は注意した方が良いんじゃないか」
「と申しますと」
「君は異性からも同性からも人気が有るからね」
浩一郎はそういった所は無頓着である。他人の好意には応じる事は有るが、それが同性愛者の場合はどうだろう。
「噂によると君は田宮君とお付き合いしているそうじゃないか」
「はい、健全な付き合いです」
「そんなものかね」
「はい、そうですね」
「君が羨ましいよ」
俊哉は容姿も他の女性より優れているし、可愛い。実際俊哉に好意を持っている男性社員は多いと聞いている。しかし俊哉が見ているのは浩一郎である。
「会長も意地悪な人だ。寸前まで情報を開示しないのはどうかと思うが」
浩一郎は意見した。
「案外、上手くやっていけるかもしれませんね。あくまで推察ですが」
「高坂君、それはいささか楽観的過ぎではないかね」
「しかしそれ以上の方法も無いでしょう。実際に会ってみないとわかりませんから」
浩一郎は俊哉が配属された時を思い出した。あの時は浩一郎は主任ではなかったので聞いてみると相当揉めたらしい。しかし今ではなくてはならない総務部での優秀な社員だ。
「まあ、とにかく配属されてから考えても問題無いかと思われます」
浩一郎の発言に他の意見も無かったのでミーティングは終わった。浩一郎はあまり有効な時間の使い方ではなかったなと思った。俊哉の意見を請いたいと思ったがそれは後でも良いなと思った。
「
浩一郎は面白くなると思っている。色々な価値観を持つ人間が居ないとつまらない。
デスクに戻って溜まっている仕事に手を掛けた。
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