第85話お風呂

「ああ、風呂は良いな」


浩一郎は体を洗いながら思った。この家は風呂も広い2人なら楽に入れる。その時、俊哉が入って来た。


「どうした俊哉」


「たまには浩一郎さんとお風呂に入りたいなと思って」


タオルで最低限、隠している俊哉だった。


「ちょうど良かった。背中の洗いっこをしよう」


俊哉は浩一郎さんに背中を洗ってもらった。今度は俊哉が浩一郎さんの背中を洗う番だ。


「浩一郎さんは背中が広いですね」


「そうかい」


発達した広背筋は背中をゴツゴツとさせている。洗うのにもやりがいがある。


「ああ、気持ち良いな」


浩一郎さんは言った。


よし、先に湯船に入るぞと洗い流した体で湯船に入った。


「この家のお風呂、広いよな。1番風呂は寒いよ」


「やっぱり家族向けに設計されたんでしょうね」


「タイルが昭和っぽくて良いじゃないか」


職人の丁寧な仕事だ。この家はモダンな建築だが所々昭和の雰囲気を漂わせている。


浴槽は広いがそれほど深くもない。浴槽の深さも家族を意識させた設計だろう。


「前の住人はどんな人達だったんだろうな」


「想像力が膨らみますね」


「俊哉、こっちへ来いよ」


浩一郎さんは俊哉を抱きかかえて自分の体の上に乗せた。2人の体は重なり合う。


「最近、新人はどうだ」


「色々有るけど順調です」


「そうか。それならいい」


浩一郎さんは湯船で体を伸ばした。それでも余裕がある広さなのだ。俊哉は浩一郎さんに身をゆだねている。


「いつまでもこうしていたいですよね」


「ああ、そうだな」


穏やかに時間が過ぎて行く。そろそろ出ようか、と浩一郎さんは提案した。ちょっとエッチな展開を望んでいた俊哉は少しがっかりした。


「湯あたりしてもいけないからな」


2人共熱い風呂が好きだ。熱く入れてもどんどん湯の温度は下がっていくので湯船に入る頃には良い温度になる。2人は脱衣所に移動した。ここも広い。


「前のマンションが狭かったからこのストレスフリーな広さは良いな」


「冬は暖房が必要ですね」


「そうだな、寒くなりそうだ」


食事も終えた2人は後は寝るだけだ。


「ねえ、浩一郎さん。きょうはしないんですか」


「俊哉はしたいのか」


はい、と答えて赤面した。堂々と言える自分が恥ずかしかった。2人はそのまま寝室に行った。寝室に入るとひょいと浩一郎さんは俊哉を抱えた。


「わ、びっくりした」


「こうするのが好きなんだ」


優しくベッドに俊哉を寝かせた。俊哉の心拍数は上昇している。なぜならほぼ全裸で寝室まで来たからだ。お互いにそんな気持ちだったのだ。


「俊哉、可愛いよ」


俊哉の全身にキスをしている浩一郎さんは俊哉の足の親指を優しく噛んだ。


「ああっ」


思わず俊哉は嬌声きょうせいをあげた。浩一郎さんは構わず愛撫を続ける。俊哉の息は荒くなった。


「気持ち良いかい」


「はい」


浩一郎さんは強く俊哉を抱きしめる。俊哉から吐息が漏れる。


「浩一郎さん、私幸せです」


「俺もだよ」


俊哉は浩一郎さんには言えない事があった。実は体は女になったが、性的欲求は男のままなのだ。だから燃え上がるような性欲を持っている。それを抑えている俊哉だったが、抑えきれない時もある。今日は実を言うと2人でお風呂に入ったのもそんな俊哉の性欲を満たすためだった。幸いにして浩一郎さんは気が付いていない。俊哉も浩一郎さんに負けていない。


「浩一郎さん、こうしてほしいんでしょ?」


「ああ、気持ち良いよ」


2人は砂場の子供のように新しい快楽を見つけるたびに喜んでいるのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る