第84話坂田詩織
総務部の新人、坂田詩織はレズビアンだ。とは言っても別段問題無く仕事をしている。内向的で大人しい。同期の神崎とは対照的だ。
「坂田さん、仕事はどう?」
俊哉が声を掛けると
「大丈夫です」
と返事をする。しかし俊哉はそれが心配だった。彼女は仕事を1人で抱え込むタイプではないだろうか。
「坂田さん、仕事が回らない時は人に頼っても良いんだからね、私でも良いし、他の先輩でも良いから」
ありがとうございます、と坂田は答えた。レズビアンとカミングアウトしてから、どことなく他の女子部員からは距離を置かれている。仕事でも距離を置かれているのを感じている。
「私も神崎君と同じく、自分の事を隠したくなかった。だから三洋商事に決めたんだ」
坂田は神崎が羨ましい。神崎の前向きさは無茶だと思うがあれくらいポジティブなら悩みも少なそうだ。男子社員からは総スカンを喰らっているが。
「神崎君は前向きで良いよね」
「その前向きってニュアンス、馬鹿みたいって意味も含まれてない?」
神崎は底抜けに明るい。冗談もしょっちゅうだ。そこに俊哉が現れた。
「今日、この3人で飲みに行くわよ」
「良いですね、行きましょう」
「坂田さんは大丈夫?」
はい、大丈夫ですと坂田は答えてしまった。本当は行きたくない。でも田宮さんの優しさに甘えても良いかもしれない。
俊哉がいつも使う居酒屋に来た。座敷に案内してもらう。
「今日は誘った私のおごり。遠慮なく飲んでね」
「わーい、やった。田宮さんのおごりだ」
「神崎君、自重しなさいよ」
坂田は神崎に言った。お通しとビールが運ばれて、飲み会が始まった。
「仕事終わりのビールは最高ね」
田宮さん、質問が有ります、と坂田は言った。
「田宮さんは高坂主任とお付き合いしていると聞いていますが」
「うん、そうだよ」
「何も抵抗は無かったんですか」
「うん、高坂主任は優しい人だからね」
「あの男らしさ満点の高坂主任が田宮さんに優しいなんて想像もつかないですが」
神崎も高坂に告白して撃沈している。坂田は続けた。
「もし高坂さんに拒否されていたらどうしていましたか」
「両想いに近かったから良かったけど、フラれても会社に残っているよ」
田宮さんもメンタルが強い。坂田は
「私はレズビアンとカミングアウトしましたがなんだかそれで女子社員から距離を置かれている気がします」
「私はもっと嫌われてるよ」
俊哉は笑顔で言った。
「上司にも部下にも人望が有って、将来有望。イケメンで人に優しいから」
「そうそう、高坂主任は良い男なんです」
神崎が合いの手を入れる。
「私がどんなに女の子のように見えても結局は男だし、好きな人の子供も産めない。問題は色々あるけど、細かい事には気にしないよ」
坂田は黙って聞いている。
「坂田さんは好きな人は居ないの?」
「居るには居るんですけど社外の人です」
「そうなら良いじゃない。恋をするなんて良い事よ」
田宮さんは優しい。決して他人を責めない。
「私は自分でできる事を全てやって、後は身を任せるようにしている」
坂田は俊哉を凄いな、人間ができていると思った。決して与えられなくても自分から与えていく姿勢。
「よし、今日は坂田さんの気持ちもわかったし、ちょっと早いけど明日も仕事だし今日はここまで」
文句を言う神崎を黙らせて飲み会はお開きになった。神崎より数歩後に俊哉と坂田が並んだ。
「坂田さん、悩みがあるならいつでも相談して。話を聞くよ」
坂田は思わず涙した。俊哉はハンカチを出して坂田に渡した。
「泣きたい時は泣かなくちゃだめ。感情を押し殺すのはいけないよ」
春の夜風が心地よい夜だった。
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