第86話雑談

「すっかり忘れてたけど会社でバレンタイン無かったね」


いつもの4人の昼休み。加奈子がサンドイッチを食べながら言った。


「会長が禁止したらしいよ。くだらないイベントだって」


「そうよね、義理チョコすらもらえない人も居るわけだし」


ちなみに4月の話である。


「でも助かったわ。チョコなんてあげたくなかったし」


「私達にもらってもねぇ」


俊哉はこっそり浩一郎さんにチョコをプレゼントしている。


「俊哉は高坂さんにプレゼントしているよね」


うん、と俊哉は言った。


「俊哉はいいんだ、俊哉は」


「でも良い男って居ないよね」


ちなみにこの4人、容姿が良いので食堂でも目立っている。


「なあ、あの4人組、結構いけてるんじゃね?」


「馬鹿、あの4人は元男だぞ」


「マジか」


色々な意味で噂になっている4人である。


「合コンとかないかな」


「このメンツでは無理じゃない」


「どう言う事よ」


また言い争いが起きる。いつもの喧嘩だ。


「まあみんな、落ち着いて」


俊哉が言うと3人は揃って


「あんたは高坂さんが居るじゃない」


と言われるのである。俊哉は可愛い部類の美人だ。アイドルに近い。スーツスタイルも似合っている。男でなければとっくにお嫁に行けるはずである。4人がワイワイやっているテーブルの少し離れたところにそのやり取りを見ているグループが居る。4人の隠れファンクラブである。その中でも俊哉はずばぬけて人気がある。


「噂で聞いたんだけどさ、田宮さんの写真、営業部のある社員に言えば売ってくれるらしいぞ」


「本当か、誰だ」


「いや、噂の域を出ていないんだけどな」


「田宮さんのプロマイド写真とか有れば買うよな」


「ああ、もちろんさ!」


今日も俊哉でいやされる社員も居るのだ。


「さあ、お昼からも頑張るか」


4人は食堂を後にした。春の日差しは強い。


「ねえ俊哉。あなたファンデ変えてない?」


「うん変えた。いつもの店で新作が出たんだ」


「あら良いじゃない。肌のノリはどう?」


「前のやつより良い感じ」


「やっぱりデパコスが良いよね。プチプラはダメよ」


声の低さを除けば女子の会話である。


仕事が終わり、4人はロッカールームで揃った。最近では珍しい。営業部の加奈子が得意先回りで帰社していなかったりするからだ。だから今日は珍しい。


「久しぶりに飲みに行こうか」


全員賛成した。俊哉は電話で浩一郎さんに飲み会の事を電話で告げた。電話を受けた浩一郎は考えた。


「たまにはジャンクな食事も良いよな」


コンビニへカップラーメンを買いに行く事にした。


「カンパーイ!」


4人はジョッキを鳴らした。グイグイと飲む。


「はあ~仕事帰りのビールはなんでこんなに美味いんだろう」


彩はしみじみと言った。


「ちょっと、彩、おじさんみたいになってるわよ」


涼子に指摘された彩は


「ごめんなさい、いけないわ」


彩は謝罪した。


「私達も早く相手を見つけないとね」


「どうやって見つけるのよ。会社では難しいわ」


「男の多いサークルに入るとか」


加奈子が提案した。


「ゴルフなんてどう?営業部はみんなゴルフやってるわ」


涼子が喰いついた。


「ゴルフか。良いかもしれない」


秘書課でも必要になるかもしれないと涼子は思った。


「まあ、明日からも仕事、頑張りましょ」


4人は別れた。帰宅した俊哉はカップラーメンの容器を見つけた。俊哉はジャンクフードが嫌いだ。


「浩一郎さんったらこんな食事をして」


今回は急に私も飲み会で居なかったし、今日は大目に見てあげよう、と俊哉は思った。浩一郎さんはソファで居眠りをしている。


「浩一郎さん、ベッドで寝ないと風邪を引きますよ」


「おお、いつの間にか寝てしまった。おかえり、俊哉」


浩一郎は寝室に行くとばたりと倒れて眠った。疲れているんだな、と俊哉は浩一郎さんの寝姿を見て思った。

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