第123話浩一郎の筋トレ

「むん、むん」


「浩一郎さん、川端さん乗せて何しているんですか」


「見ての通り、腕立て伏せだ」


夕食の買い出しから戻って来た俊哉はリビングで腕立て伏せをする浩一郎さんを目撃した。


「言ってくれたら私が乗るのに」


「無性に腕立て伏せがしたくなってな、ちょうど川端さんが居たから乗ってもらっていたんだ」


川端さんはソファに移って浩一郎さんが用意したであろうお菓子とお茶を楽しんでいるようだ。


「川端さん、ありがとうございました」


「いいえ、気にしないでください。ただ乗っていただけですから」


でも川端さんは幸せだった。浩一郎さんの背中に乗れたのだから。


「晩御飯までまだ時間が有るな。トレーニングを続けるよ」


浩一郎さんは庭に出た。手にはケトルベルが握られている。ケトルベルとはトレーニングの道具としては比較的新しく、愛好家も多い。浩一郎もその1人だ。ダンベルとは違い、複雑な筋肉の使い方をするのが特徴的だ。


「よし、やるか」


浩一郎さんはトレーニングを始めた。それをシロはリビングから眺めている。


「浩一郎さんは逞しいです」


川端さんは俊哉にではなくシロに話しかけている。


「貴女は浩一郎さんが好きなんでしょ」


シロは川端さんに言った。川端さんは姿を消している。


「何故わかったんですか」


「女の勘です」


「私は幽霊ですよ。どうせ叶わない恋だから良いじゃないですか」


「まあそれはそうなんですけどね」


今日は俊哉が晩御飯を作る番だ。鳥の唐揚げを作るつもりだ。俊哉の唐揚げは下味をしっかりつけて2度揚げする。そうするとカラッとした唐揚げになるのだ。俊哉の自慢の料理だし浩一郎さんの大好物だ。


「これだけあれば大丈夫でしょう」


山のように揚げた唐揚げを皿に盛りつけ、テーブルに運んだ。


「浩一郎さん、唐揚げ出来立てですよ」


そう声を掛けると浩一郎さんは部屋に飛び込んで来た。


「よし、出来立てを食べようじゃないか」


炊飯器のブザーも鳴ってご飯が炊けた。


「ご飯も炊けてグッドタイミングだ」


「ちょっと蒸らさないと」


俊哉は浩一郎さんのどんぶり鉢を食器棚から取り出した。浩一郎さんは誘惑に負けて唐揚げを口にしている。


「やはり俊哉の唐揚げは店で食べるのと違うな」


「手間を掛けていますからね」


俊哉はどんぶり鉢にご飯をよせて浩一郎さんに渡した。おかずは唐揚げの他にシーザーサラダ、アオサの味噌汁だ。


「いただきます」


「もう食べちゃってるじゃないですか」


俊哉と浩一郎の食卓は賑やかだ。再び川端さんが現れた。


「川端さんも座りますか」


浩一郎さんが椅子を引いてあげると川端さんは座った。


「唐揚げを川端さんにも」


小皿に乗せた唐揚げとお茶を出された川端さんはそれを見つめている。


「俊哉、ご飯おかわり」


「もうおかわりですか」


「ご飯が進むんだ」


俊哉がご飯をよそう。


「川端さん、俊哉の唐揚げ美味しいでしょう」


「はい、美味しいですね」


川端さんはそう言った。俊哉と浩一郎は何時も仲が良い。川端さんは2人が喧嘩をしている所を見たことが無い。何故喧嘩をしないのか、いっしょに暮らしていれば喧嘩もするだろうと思うのだがこの2人は違うらしい。


「え?何故俺と俊哉が喧嘩をしない?」


川端さんから聞かれた浩一郎は答えた。


「それは俺が折れるからですよ」


「浩一郎さん、ずるいです。まるで私が悪いみたいじゃないですか」


俊哉が抗議した。


喧嘩するほど仲が良いとはこういう事だな、と川端さんは思った。自分に2人の間に入る余地は無い。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る