第28話今日は俊哉の家その1

「お邪魔します」


浩一郎は玄関をくぐった。そのまま入ると顔を打ってしまう。俊哉の家は昔ながらの和風の家だ。


「古い家でしょう、申し訳ないわ」


俊哉の母、順子が言った。俊哉の家は化粧瓦の立派な和式建築だ。


「お茶室も有るのよ、後でお茶を点てましょう」


浩一郎は手土産を順子に渡した。


「細やかなものですが」


「あら!虎屋の羊羹ようかん。嬉しいわ」


「高坂さん、こちらへどうぞ」


俊哉の妹の美紀が言った。俊哉の父、啓介は座って待っていた。


「やあ、高坂君、いらっしゃい。今日はゆっくりしてくれ」


啓介は碁盤に向かって碁を打っている。


「碁を打たれるんですね」


「高坂君は碁が打てるのかね」


「はい、祖父や父と良く打ちました」


「なら是非対局を申し込もうか」


啓介と浩一郎は碁を打つことになった。


「お父さんったら仕方が無いわね」


「もう、お父さん、高坂さんを独り占めしちゃだめだよ」


美紀は不満を言った。


「ちょっとだけだ、ちょっとだけ」


2人は黙って打っている。浩一郎さんも真剣だ。


「浩一郎君は渋い碁を打つね」


「最近全然打ってませんね」


「お父さんと高坂さんが碁を打っている間にお昼ご飯の準備をしましょう」


順子、俊哉、美紀は昼食の準備を始めた。


「お母さん、浩一郎さんすごくご飯食べるよ」


「4合も炊けば十分でしょう」


それくらいなら大丈夫か、と俊哉は思った。浩一郎さんも遠慮するだろう。


「俊哉は唐揚げ、美紀は食器の準備をしてね」


順子は役割分担を決めて台所に立つ。それぞれがテキパキと動く。


「良い手を打つねえ」


浩一郎の一手に啓介はうなった。浩一郎はいい勝負だと考えている。


「もう打つところも無いね」


そうですね、と浩一郎は言った。整地をすると3目半で啓介の勝ちだった。


「良い碁だったね」


「はい、楽しかったです」


後片付けをしながら浩一郎は言った。


「もうそろそろ昼食の用意が出来ている頃だろう」


啓介と浩一郎は居間に向かった。唐揚げの良い匂いがしている。


「浩一郎君は唐揚げが好きだと聞いたがどうだい」


「はい、大好物です」


「じゃあ沢山食べてくれ」


「ありがとうございます」


浩一郎は上座に座り、続いて隣に俊哉が座った。浩一郎の右手に美紀が座っている。


「さあ、召し上がれ」


「いただきます」


浩一郎は箸を手に取った。俊哉も見慣れていたが驚いた事があった。それは浩一郎の行儀が非常に良いのである。正座をし、背筋を伸ばした姿は美しい。箸の扱いも綺麗だ。


「高坂さん、お行儀が良いわね」


「いや、それほどでも」


「ご両親のおかげね」


「いえ、実は両親は事故で亡くしていまして、ずっと祖父母に育てられていました」


部屋に沈黙が訪れた。しかしそれをかき消すように順子が言った。


「そうだったのね」


「はい、母の作る唐揚げが好きでした」


「じゃあ沢山おあがりなさい」


「ありがとうございます」


箸を止めていた浩一郎は再び箸を動かし始めた。浩一郎がおかわりをしている。


「ご飯は沢山炊いてあるから遠慮なく召し上がってね」


「はい、ありがとうございます」


浩一郎と俊哉の家族は談笑をしながら昼食を楽しんだ。


「もうお腹一杯です」


浩一郎は言った。よく食べた方だ。

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