第75話訳あり物件
浩一郎さんの運転する車に俊哉と浩一郎さんの叔父さん、源一郎さんが乗っている。
「浩一郎、俊哉さんと同棲するんだな」
「叔父さん、そうだよ」
「実はな、浩一郎。俺を助けるつもりで協力してくれないか」
「何の話だい?」
俊哉は浩一郎さんと叔父さんの会話を聞いていた。
「是非とも2人にお勧めの物件が有る」
「叔父さん、どんな条件だい」
「敷金0礼金0、家賃5年間無料だ」
「そんな条件、怪しいよ」
俊哉が口を挟んだ。
「ひょっとして、事故物件ですか」
「そうなんだ、俊哉さん」
なんでも入居する人がこの家は出ると言ってすぐ引っ越してしまうと言う。
「しかも不思議な事に、家が傷まないんだ」
長く人が住まないと家が傷むと言うのは聞いた事が有る。俊哉は源一郎さんに聞いてみた。
「何が出るんですか」
「女の幽霊だそうだ」
源一郎叔父さんは家を取り壊そうとしたが依頼する業者がことごとく断られてしまう。1社、強引に取り壊そうとしたが、作業員全員が高熱を出して仕事にならなかった。
「叔父さん、お祓いはどうなんだい」
「何回もお祓いしたんがダメなんだ」
売却しようにも噂が広がって買い手が見つからない。悩んでいる時に浩一郎から電話が有ったのだ。
「まあ物件を見て決めてくれ。色々有るから」
浩一郎のベンツが家に着いた。車を停めると割と広い家だった。昭和の頃のモダンだ。
「なかなかいい雰囲気じゃないか」
浩一郎さんが言った。確かに古い家だがお洒落な家だ。
「まあ中に入ってくれ」
リビング、キッチン共に今風だ。
「叔父さん、築何年だい?」
「50年くらいだな」
リビングもフローリングで、当時としては最先端の建築ではないだろうか。
「クロスを張りかえれば十分住めるな」
1階はリビング、キッチンの他に洋室が2部屋ある。広めの部屋だ。
「2階も見てみるかい」
源一郎さんに案内されて2階に上がった。和室があって、そのほかは洋室だった。
「かなり良い物件じゃないか」
浩一郎さんが俊哉に言った。
「破格、と言うより訳あり物件ですね」
俊哉も浩一郎も幽霊を信じていない。
「叔父さん、幽霊なんて居ないよ」
「じゃあ入居してくれるんだな」
「うん、決めた」
叔父さんは喜んだ。
「でも、叔父さんの儲けが無いじゃないか」
「それでも良いんだ」
この建物が好きなんですね、と俊哉が言うと
「そうなんだ。俺のお気に入りの物件だ」
帰りの車の中で段取りが決められた。
「洋室はクロスの張り替え、トイレの洋式化、畳の取り換えだな」
「叔父さん、その費用は俺が出すよ」
「浩一郎、それで良いのか」
「タダで借りるのも叔父さんに申し訳ないしな」
「そうか、叔父さんは嬉しい」
源一郎さんは喜んだ。
「じゃあ諸手続きは俺に任してくれ。3週間もあればリフォームは出来ると思う」
叔父さんは浩一郎のマンションの自分の車に乗り換えて帰って行った。
「浩一郎さん、いきなり決めて良いんですか」
「ああ、叔父さんも困っていたんだろうな」
俊哉も浩一郎も幽霊を信じない。それよりも怖いのは生きている人間だ。
「よし、じゃあ早速引っ越しの準備だな」
「はい、私も荷造りします」
2人、楽しそうに語り合った。後でとんでもない事になるのを2人はまだ知らない。いや、知っていれば住まなかっただろう。
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