第142話児童相談所
俊哉と浩一郎は児童相談所を訪ねた。あらかじめ伝えていたために係の職員が応対してくれた。
「私、ソーシャルワーカーの桑田と申します」
「高坂浩一郎です。よろしくお願いします」
名刺を交換して本題に入った。
「特別養子縁組は法改正により煩雑な手続きが簡略化されました。それでも大変ですが」
「やはり弁護士さんに相談した方が良いでしょうか」
「いえ、そこまでしなくても私達児童相談所も家庭裁判所も質問や疑問、申立書については相談してくれれば対応しますよ」
用意しなければいけないのは申立書のみではない。実の両親の戸籍謄本も必要となる。もちろん、経済的に養子を養える経済的な収入の証明も必要になる。俊哉は必要な事をメモに書きこんでいる。質問は浩一郎さんがしてくれる。
「あの、養子に迎え入れる子供は選べるのですか」
「もちろん可能です。できるだけ養親の希望は受け入れます」
「なるほど、わかりました。少し子供達を見てみたいのですが可能でしょうか」
「はい、可能ですよ」
俊哉と浩一郎は施設を見学した。子供達の賑やかな声が聞こえてくる。子供はいつだって元気だ。俊哉達はゆっくり見学をさせてもらった。そこで気になった子供が居た。その子は賑やかな施設の中で隅っこで静かに絵本を読んでいた女の子だ。
「なあ俊哉、気になった子供が居るんだが」
「ひょっとして部屋の隅っこに居た子供ですか」
「そうだ。なぜわかった?」
「浩一郎さんの考えや気持ちは誰よりも理解していますよ」
早速、桑田さんに子供の事を聞いてみた。
「ああ、紫苑ちゃんですね。あの子は内向的で人見知りもしますが、素直な子ですよ」
「あの子は特別養子縁組の養子の対象でしょうか」
「はい、対象です。児童相談所では数回の面談を行います」
桑田さんがそう答えた。俊哉は質問した。
「紫苑ちゃんと面談を希望したいのですが」
「わかりました。面談の日程を決めて、後程ご連絡させていただきます」
俊哉と浩一郎、紫苑の出会いはここから始まった。
「なんかさ、あの子を見てピンと来たんだ」
「浩一郎さんもそうですか」
「俺達の直感を信じたいものだぜ」
特別養子縁組の準備は着々と進んだ。養子は紫苑ちゃんと決めた。俊哉と浩一郎は紫苑ちゃんと初めての面談を迎えた。
「紫苑ちゃん、初めまして。高坂浩一郎です」
「初めまして。高坂俊哉です」
「大矢紫苑です」
素っ気の無い返事が返って来た。まあ最初はそんなものだろう。見ず知らずの人間が来るのだから。面談室では桑田さんも同席している。
「紫苑ちゃんにプレゼントがあるんだ」
浩一郎は鞄から絵本を取り出した。
「もう紫苑ちゃんは読んだかもしれないけど」
その絵本は100万回生きた猫だった。
「ありがとうございます」
紫苑ちゃんはきちんとお礼を言った。4歳児にしてはしっかりしている。俊哉と浩一郎は少しずつ、会話を交わした好きなお菓子、食べ物、おもちゃ。2人は紫苑ちゃんに慎重に質問をした。
「今日はこれで終わりにしましょう」
桑田さんが面談の終了を告げた。紫苑ちゃんにさよなら、と告げて俊哉と浩一郎は施設を後にした。
「紫苑ちゃん、どう思っていますかね」
「それはわからないな」
2人は帰りの車中で話し合いをした。初めての面会は好感触だと思った。これから少しずつ紫苑ちゃんと歩み寄れば良い。2人は部屋を準備するために家具をどうするか話し合った。
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