第184話男の生き様

「流石に疲れたぜ。もう歳だな」


大会で優勝した浩一郎はジムの会員の信頼を更に強くした。なにせ大会でも優勝できる実績の有る黒帯のインストラクターだからだ。黒帯と言っても上手くコネを使って黒帯を取得したりする人間が居る。柔道のように昇段審査が無いので帯の色が変わる基準は曖昧だ。だいたいは大会で複数回優勝するのが基本的な基準だ。


「お疲れ様でした、浩一郎さん」


ドスンとソファに沈んだ浩一郎に俊哉はお茶を入れた。浩一郎は疲れた時はほうじ茶を飲む。ほうじ茶にはカフェインが無く、何より睡眠を大切にする浩一郎は寝る前はほうじ茶を飲む。


「俊哉、今日は打ち上げで焼肉たらふく食べたから晩御飯はいいよ」


「はい、わかりました」


「お父さん、大会で優勝したんだね」


浩一郎は金メダルを紫苑に見せた。紫苑はメダルを調べている。


「お父さんはどれくらい強いの」


「どれくらい、かあ。考えた事が無かったな。まあ、全日本とかに出ればかなり強い方だな」


「お父さんはその大会に出場しないの」


そうだなあ、と浩一郎は考えた。浩一郎は紫苑の問いには全力で答える。


「よし、じゃあ全日本出るか」


「浩一郎さん、大丈夫ですか」


「ヤバいな」


浩一郎は笑って答えた。


「よし、紫苑よ競争だ。紫苑がタイトルリーグ戦本戦出場してタイトル戦に挑戦するのとお父さんの全日本戦優勝だ」


俊哉はこうした時の浩一郎さんを知っている。浩一郎さんは有言実行の性格だ。発言を必ず実行する。


「よし、お父さんはお風呂に入るぞ」


浩一郎はリビングから消えた。


「紫苑ちゃん、お父さんを煽っちゃダメよ」


「だってお母さん、お父さんも紫苑も勝負に生きる人間だよ」


俊哉に衝撃が走った。そうなのである。普段は静かな浩一郎さんだがいざ決戦となると修羅の如く変貌する。俊哉は決勝戦の浩一郎の表情を思い出した。修羅の顔とはあのような表情だろう。


「今日はゆっくりお父さんを休ませてあげてね」


「うん、わかった」


今日は紫苑の大好物の豚の生姜焼きだ。風呂上りの浩一郎がリビングに来た。


「良い匂いがするねえ」


「浩一郎さんはプロテインです」


「そうだなあ、今日は肉たらふく食べたから」


浩一郎はプロテインシェイカーにプロテインと牛乳を入れた。浩一郎は適当に振ってプロテインを喉に流し込んだ。


「紫苑、タイトル戦予選勝ってるな」


「うん、今予選の2回戦」


「調子が良いじゃないか」


「うん、頑張るよ」


紫苑は浩一郎に質問をした。


「お父さん、男って何?」


「男はな、強くて優しいのが男なのさ」


浩一郎は静かに言った。浩一郎だからこそその言葉に説得力がある。


「強いから優しい。優しいから強い。簡単だろ」


椅子に座って浩一郎は紫苑に言った。


「男はな、戦ってこそ男なんだ。例え倒れて負けてもな。それを昔の人は意地を通すと言ったんだ」


「意地を通す」


「そうだ、例え負けたとしても最後まで諦めずに最後までやり抜く。それが男の生き様なんだ」


「男って大変だね」


「大変さ。男子外に出れば7人の敵がいるって言うくらいだからな」


「お父さん、強いのにもう敵がいないんじゃないの」


「そう思うだろ、そうじゃないんだ。今日お父さんに負けた相手はお父さんを打倒するためにさらに努力するんだ。だからお父さんも頑張らないといけない。紫苑ならわかると思うが、勝つのはさほど難しい事ではない。勝ち続ける事が難しいんだ」


俊哉はキッチンからその話を聞いていた。浩一郎さんは優しい。でもその優しさの下にはマグマのような闘争心を必死に押さえている。

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