第71話総務部の食事会
「2週間後、食事会が有る。全員参加だ。体調には気を付けて当日欠席しないようにする事」
浩一郎さんは部員にそう口頭で伝えた。朝礼は終了となった。
「ねえ、田宮さん、お食事会の時、いっしょの席にならない?」
社員の1人が声をかけてきた。女子部員だ。
「良いですよ」
俊哉にも断る理由が無かったし、あまり深く考えなかった。その話を聞いていた他の女子部員も私も混ぜて、と声をかけてきた。じゃあと約束してその場は解散した。
2週間後。総務部の部員は懐石料理の店に来ていた。なかなか高価な食事代になるのではないかと思った。大広間へ通され、それぞれ自由に席に座った。上座には部長、課長、係長と管理職が座っている。部長が挨拶をした。
「今回はこのような高価な懐石料理の店で食事会ができるのも三ツ谷会長の心配りである。感謝して食事を楽しむように。決して酒を飲み過ぎないように」
「会長も太っ腹だよね」
「私、懐石料理なんて初めてだよ」
女子部員達がお喋りを始めた。和やかな雰囲気になった。
「ねえ、田宮さん、高坂主任とは最近どうなの?」
やっぱりこういう話題になるのね、と俊哉は思った。
「仲良くしてますよ」
「じゃあ、あれをする時はどうなの?」
「ご想像にお任せします」
俊哉は食事を楽しみながら、女子部員の質問攻めをのらりくらりあしらっていた。
「この吸い物、美味しいですよ。熱い内に食べないともったいないですよ」
俊哉がそう言うと女子部員達は慌てて椀物に箸をつけた。
「ねえ、田宮さん。高坂主任ってどういう人?」
「大胆さと繊細さをバランス良く持っている人ですね」
「服装ってどうなの?」
「ゴリゴリのアメカジです。ヴィンテージの古着が大好きです」
俊哉がちらと上座を見ると浩一郎さんが大きな体を畳むようにして部長達に酌をしていた。浩一郎さんも気を使ってそれなりに忙しいようだ。
「田宮さん、将来は高坂主任とどうなりたいの」
「まだ未来の事は考えていませんね」
焼き物が運ばれてきた。小鯛だ。俊哉は箸をつけた。
「田宮さんは行儀が良いわね」
「そんな事ないですよ」
「箸の持ち方も綺麗だし、正座も崩さない」
それは行儀に厳しい祖母の躾だった。今でも田宮家では正座で食事をする。
「はあ、田宮さん、肌も綺麗だし、どう見ても女よね」
ぐっと言いたい事を俊哉は
「自分磨きは大切ですからね」
「ねえ、コスメはどこのを使っているの?」
「デパコスで気に入ったものを回って選ぶ感じですね」
「田宮さん、お金持ちだぁ」
俊哉は食事に集中したかった。料理はどれも美味しい。
「皆さん、美味しい料理ですよ。冷めないうちに食べるのが良いと思いますよ」
食事に夢中になっている隙を突いて俊哉は部長たちに酌をして回った。
「おお、田宮君が酌をしてくれるのか」
部長も喜んでいる。
「それにつけても我が女子部員はお喋りに夢中だ」
係長は愚痴を言った。
「こんな機会でないとゆっくりお喋りできませんから」
俊哉はそう答えた。酌の順番が浩一郎さんになった。
「オウ田宮。酌をしてくれるか」
「はい」
俊哉は浩一郎さんに酌をした。
「女子部員とは楽しくやっているか」
「はい、色々と楽しいです」
「そうか、じゃあ戻れ」
「はい」
俊哉は元の席に戻った。料理が全て出され、俊哉も楽しんだ。この懐石料理は相当な金額になるはずだ。三ツ谷会長も豪気な人だと思った。店を出ると夏の暑さは落ち着いたものの、まだ半袖が心地良い。お喋りも楽しかったので俊哉にとって有意義な食事会になった。2次会を断り、浩一郎さんの家に向かう。今日もお疲れ様。自分。
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