第93話番組鑑賞
ディレクターの下地からDVDが送られてきた。俊哉と浩一郎宅にはテレビが無いのでパソコンで観る事になった。プロジェクターを使ってみることにした。番組はLGBTQの特集だった。現状を考えるための番組の内容だった。
「あれ、川端さん、お久しぶりですね」
いつの間にか川端さんが現れていた。俊哉と寸分変わらない。
「よし、じゃあみんなで観よう」
川端さんの好物のみたらし団子と熱いほうじ茶をお供えに、3人で観る事にした。俊哉の働く姿が映った。
「私ってカメラで観ると不細工ですね」
「そんなことは無いさ」
ナレーションと共に俊哉の姿が映る。
「俊哉はテレビでも可愛い」
「恥ずかしいからそう言うのやめてください」
2人のやりとりの隣りで川端さんは静かに映像を観ている。映像が切り替わり、浩一郎がインタビューに答えている。
「俺を放送するのはどうか。オッサン映して何が楽しいんだ」
浩一郎もインタビューに答えている。テロップで名前も出ている。しかしあれだけ時間を費やしながら放送されたのは5、6分程度だった。その後、涼子、加奈子、彩と映像は切り替わっていく。
「まあ仕方無いかもしれませんね、番組が1時間ですし」
俊哉は浩一郎さんに言った。映像は司会のアナウンサーとLGBTQに詳しい大学教授の会話に切り替わった。
「三洋商事の柔軟さは伝わったと思うが後はどうだろうな」
「それだけ伝わっただけでも良いんじゃないですか」
結局はMHKの思惑通りに製作されて、トランスジェンダーの事など考えていない。なんだか俊哉は良いように利用されただけではないだろうかと浩一郎は思った。
「俊哉さんは頑張っているんですね」
川端さんはポツリと言った。
「そうです川端さん。私、頑張っています」
俊哉は川端さんに言った。
「勉強になりました。お供えありがとうございます」
すうっと川端さんは消えて行った。
「他の3人はどう観たかな」
「多分私達と同じ感想じゃないですか」
翌日の月曜日。食堂に4人は居た。
「まあ、あんなものじゃない?」
涼子は月見そばを注文している。素早くいつも通りの席を陣取る。
「まあ私達の事が世間に見てもらえるってああいう機会がなければ知られていないでしょうね」
加奈子はカレーを食べている。
「でもさあ、なんか見世物みたいな感じがしたわね」
加奈子はそう言った。
「テレビ局ってブラックな職場よね」
4人が共通している意見はあれだけ時間をかけて取材したのに放送されるのはほんの少しだ。
「私のタイプのカメラマンが居たわ」
「ああ、居た居た、男前のカメラマンだったね」
「あんなお仕事でお給料っていくら貰っているのかしら」
「薄給そうよね」
4人、言いたい放題である。食堂も混んで来たので4人は自動販売機のコーナーに移動した。飲み物を買って4人はお喋りをしていると話しかけられた。
「テレビに出演されていかがでした?」
話しかけてきたのは女子社員だ。涼子が答えた。
「まあ、疲れたと言うのが正直な感想ですね」
「SNSを見ましたか?バズっていますよ」
4人ともSNSをしていないので見せてもらった。
「すごいでしょう、10万人も見ているんですよ。ファンクラブも出来そうな勢いですよ」
そうですか、と4人は答えた。この番組の影響で三洋商事にはトランスジェンダーの入社希望者が増加する事になったが、そう簡単に入社できる会社ではない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます