第56話普通に見えるが

4月。入社式を終えた新入社員が総務部へ来た。男女1名ずつ。ゲイとレズビアンの事は管理職は部員に伝えていない。共にスタイルも良く、男はイケメンだ、と俊哉は思った。女性も綺麗な子だ。浩一郎さんから聞いていた2人だ。部長が2人に自己紹介をうながした。


「初めまして。神崎達也です。仕事については右も左もわかりませんがご指導ご鞭撻べんたつよろしくお願いします」


これは普通の自己紹介だな、と俊哉は思ったが、爆弾発言が出た。


「僕はゲイです。好みのタイプは男らしい人です」


職場がざわついた。あまりにストレートなカミングアウトのために総務部は動揺を隠せない。


「え~それでは次の自己紹介をお願いしようか」


「はい」


すっ前に出てお辞儀をして自己紹介を始めた。


「初めまして。坂田詩織と申します。全力で仕事を頑張ります。よろしくお願いします」


総務部員は先程のショッキングな発言からまだ立ち直っていない。


「ちなみに私はレズビアンです。男性に興味がありません」


またしても総務部に動揺が走った。部長は動じず、言った。


「以上、神崎君と坂田君の自己紹介を終わります。お2人さん、高坂主任の指示を仰いで仕事を覚える事」


部員は解散した。みんな小言で何か言っている。俊哉にも聞こえてきた。


「おいおい、いきなりカミングアウトかよゲイとレズだってよ」


「2人とも顔もスタイルも良いのにねぇ」


「俺は怖いよ」


高坂主任は田宮を呼んだ。俊哉は浩一郎のデスクに来た。2人も並んでいる。


「神崎君、坂田君、先輩の田宮だ。我が総務部では仕事を覚えた1年目の部員が新人を教育する事が決められている。それは教えられた人間が逆に教える立場になる事で教えると言う事の大切さを学ぶ」


浩一郎さんは続けた。


「先ずは毎日の定型業務を覚えるように。それとビジネスマナーに留意する事。先輩の田宮も自分の業務を行いながら君達を指導する。必ずメモを取ってわからない事が有れば直ぐに聞く事」


2人は最初の言葉をメモしている。


「田宮。忙しいとは思うがこれは総務部の慣習なんだ。よろしく頼む」


浩一郎さんが頭を下げた。


「高坂主任、頭を下げるほどの事ではありません」


俊哉は言った。


「田宮、ありがとう。では2人の面倒を頼む」


はい、わかりました、と言って2人を俊哉のデスクまで連れて来た。


「とりあえずはこの空いたデスクを自分のデスクにしてもらいます。先ずはルーティンワークを覚えて、少しづつ仕事を覚える事。何か質問はある?」


神崎は俊哉に質問した。


「あの、田宮さん、声がすごく女性にしては低いんですが何故ですか?」


「トランスジェンダーよ。元、男。性転換手術を受けて戸籍も女になった」


「やっぱりそうだと思いました。でもどうみても女性ですよ」


俊哉は坂田に聞いた。


「坂田さんは何か質問がある?」


「いえ、まだ有りません。これから増えると思いますが」


「よし、2人共、最初の仕事は庶務課に行って自分のパソコンを受け取る事。じゃあ行くわよ」


3人は庶務課に向かう道すがら、2人に話を続けた。


「どうしても解決できない問題が起きたら私か高坂主任に報告する事。わからないまま放っておかない事」


庶務課に来た3人を加奈子が見つけた。


「俊哉、新人研修?」


「そうよ。2人にパソコンを欲しいの」


「OK、すぐに用意するわ」


「ところで2人はパソコン、大丈夫よね、使えるよね?」


神崎は申し訳なさそうに


「すみません、不得手です」


と言った。


「坂田さんは?」


「問題ありません」


「じゃあ神崎君、坂田さんにパソコンを教えてもらう事。わかった?」


「はい、わかりました」


加奈子が2台、ノートパソコンを持って来てくれた。


「今年入った新品よ。大切に使ってね」


はい、わかりました、と神崎と坂田は答えた。


「よし、これから仕事を教えるから頑張って覚えるように」


はい、と2人は答えた。

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