第57話俊哉、仕事を教える
「以上、この業務はここまでで終わり。何か質問は」
俊哉が言うと、神崎と坂田はメモを取った後、特にありませんと答えた。
「と言う事はこの業務を理解、把握したと言う事で問題無いわね」
「田宮さん、すいません。ここだけ良くわからないのですが」
俊哉は丁寧に、根気強く教える。浩一郎さんがしてくれたように。通常、総務部では部員1年生が新入社員に仕事を教えるのだが、諸般の都合で浩一郎さんが俊哉に仕事を教えてくれた。徹底的に叩き込まれる浩一郎さんの方法は強引な教育方法に見えるがそれは最初の覚える事をしっかりと覚えてもらわないと応用力が必要な総務部では仕事が出来ないからだ。
「神崎君、パソコンのスキルはどの部署に行っても必須よ。努力して覚えるように」
「はい、頑張ります」
1つ業務を教えるとデスクに戻り、ノートに書かせる。その後は坂田が神崎にパソコンを教える時間にした。
「神崎君、これで表計算ソフトの使い方を覚えた?」
「ごめん、まだわからないよ」
「じゃあわからないところから始めよう」
俊哉は2人を見て、案外この2人は上手く行くかもしれないと思った。良いコンビに見える。
「今日は俊哉、来ないのね」
加奈子、涼子、彩は食堂に来ている。
「新人の教育係になったみたいだよ」
「部署によって教育係は方針が違うからね」
「それがさ、新人2人、
加奈子が言った。
「どんな問題児よ」
「ゲイとレズビアンらしいわ」
「またとんでもない人材登用ね」
彩も言う。
「まあ、実際私達も同じようなものだからね」
「それにしても俊哉も大変ね」
「私達がフォローしてあげなくちゃ」
3人の意見が一致した。
「よし、じゃあこの辺りでお昼にしようか」
俊哉は少し遅めのお昼休みになった。
「じゃあ今日は私のおごりで食堂に行きましょう」
「本当ですか!助かります」
神崎が喜んだ。
「社員食堂よ。そんなに嬉しいの?」
「最近、ずっとパンの耳でしたから」
「あなた、大丈夫?」
俊哉は心配した。
「好きなものを食べなさい」
神崎はラーメンとカツ丼、坂田は天ぷらそばを頼んだ。
「神崎君、どうしてそんなに食べていないのよ」
「実は大学を卒業する前に両親にゲイであることをカミングアウトしましたら勘当されまして」
美味しそうに食事をする神崎に俊哉は感心した。俊哉の家族は寛容であるが、大抵の家族はそうではない。トランスジェンダーの人間にもよく起こり得る事なのだ。
「坂田さんはどうなの?」
「私は施設で育ちましたから、カミングアウトも問題ありませんでした」
坂田も神崎とは違う問題を抱えていそうだ。慎重に言葉を選んで質問しなくてはいけない。
「あら俊哉じゃない」
いつもの3人と会った。
「この2人が新人さん?」
「うん、そう。神崎君と坂田さん」
2人は席を立ってお辞儀をした。
「よろしくお願いします」
「まあまあそんなにかしこまらないで。先輩の田宮は優秀な社員だからしっかり仕事を教えてもらいなさいよ」
はい、と2人は答えた。3人が去った後、神崎が俊哉に聞いた。
「ひょっとしてあのお三方もトランスジェンダーですか」
「そうよ。私と同じ。でも優秀な社員よ。あの声を掛けてきた1人は1年で主任に昇格したわ」
「凄いですね」
「三洋商事は実力主義よ。あなた達も仕事を頑張って私を追い越しなさい」
はい、と2人は元気に答えた。
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