第104話会長面談

「田宮君、まあ座りたまえ」


会長室で三ツ谷会長は俊哉をソファに座らせた。


「何の事前連絡も出来なくて申し訳ない。忙しくてな」


「いえ、そんな事はございません」


俊哉は恐縮した。


「君は何故私に呼び出されたのかわかるかね」


「わかりません」


三ツ谷会長は切り出した。


「先の総務部での昇任人事会議で君が主任に昇任を求める稟議書が私の元に届いた。総務部の管理職での総意だ」


涼子が茶を持って来た。涼子がウィンクした。


「我社では昇任の最終決定権は私にある。もちろん、承認を断る事も出来るが田宮君は昇任したいか」


「はい、主任になりたいです」


「君の勤務評価は人事部でも高い評価を出している。君のように上昇志向のある人間は我社でも貴重だ。主任の責務を全うしてほしい」


しばらく世間話をして俊哉は退室した。お茶を片付けに来た涼子に三ツ谷会長は話しかけた。


「君は田宮君と同期だったね。彼女の人となりはどうかい」


「非常に勤勉で真面目ですね。物事に対しても柔軟に取り組む人間です」


「そうか、ならば良い」


お昼休み、4人は屋上に居る。


「俊哉、主任昇任おめでとう」


涼子は俊哉に言った。


「何!俊哉が主任に」


加奈子が驚いた。彩も同様だ。


「しかし私達の実力がいよいよ認められた訳よね」


3人は俊哉の昇任を喜んだ。


「でも色々と心配もあるのよね」


俊哉はそう言っておにぎりを口にした。浩一郎さんお手製のおにぎりは小さめに作られていて、食べやすい。


「そりゃ出世したい人間はいくらでもいるわよ。でも優秀な人間はどんどん昇任するのが三洋商事の方針よ。素直に喜びなさい」


涼子がそうさとした。


「総務部の女子社員は私を良く思っていない人間もいるからね」


「そんなくだらない人間は適当にあしらっていれば良いのよ」


加奈子はそう言った。


「だって今までの私達がそうだったじゃない。社会的にも疎外されてさ。それが自分の実力を認められるのよ。喜ばしい事よ」


彩もそう言った。


「よし、今日は俊哉の昇任のお祝いよ。いつもの居酒屋で良いわね」


歓迎会が決定した。今日は定時で帰る事に全員決めた。


「浩一郎さん、今日は4人で私の昇任祝いがあります。遅くなるので食事は浩一郎さんにお任せします」


俊哉は浩一郎さんにメモを手渡した。社内メールではメールサーバーから筒抜けになるのでそれを避けてメモにした。


「わかった。お祝いしてもらえばいいよ」


浩一郎さんはそう言ってくれた。


「それじゃあ乾杯!」


俊哉の昇任祝いの乾杯だ。注文した料理も続々と運ばれてくる。


「これで私達の三洋商事での立場も盤石ばんじゃくのものになったわ」


「喜ばしい事よ」


4人は喜んだ。


「ほら、前にテレビ取材受けたじゃない。あれから問い合わせが絶えないそうよ」


「それはそうよね。LJBTQを積極的に採用しているんだから」


「相談を受ける事も有るわ。私も採用されますかって知り合いから連絡があったりするし」


彩は焼き鳥を食べながらそう言った。


「でも三洋商事の入社試験は業界でも屈指の難しさよ」


この場に居る4人はその厳しい狭き門を潜り抜けた精鋭だ。SPIなどの形式的な試験ではない。記述式が殆どだ。幅広い知識と教養が問われる。


「あの頃は4人で勉強会したわよね」


「それが今、出世街道を走るのよ。喜ばしい事よ」


「俊哉が主任に承認したのはまだ始まり。これからは全員昇任を目指すわよ」


4人の結束は更に強くなった。

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