第34話ブラジリアン柔術

俊哉達4人はブラジリアン柔術ジムに見学に来ている。浩一郎が指導しているジムだ。俊哉達が半ば強引に見学をとりつけた。


「じゃあエビから始めましょう」


ジム生が熱心に練習している。女性も居る。


「女性も居るんだね」


「最近は女性も増えてるらしいよ」


基礎練習が終わって休憩に入った。ジム生がひそひそと会話をしている。


「なあ、あの4人、可愛くねえか」


「おれは1番右が良いね」


「俺は左から2人目」


「あんな女子とスパーしたいな」


全員元男である。休憩が終わってテクニックの時間になった。浩一郎はスパーリングや大会で良くなるシチュエーションを想定してテクニックを教える。その後はフリーのスパーリングだ。


「皆さん、できるだけ色々な人とスパーリングしてください。色帯の人は上の色帯を、白帯の人は青帯を目標にしましょう」


大きなタイマーが5分に設定されている。ジムのマットの中央に人が集まってくる。


「どうですか、柔術を見て感想は」


俊哉達に浩一郎は話しかけた。


「結構大変そうですね」


涼子が意見を言った。


「体力がつくまではちょっと大変かもしれませんね。でも打撃も無いですし、怪我はしにくいですよ」


「なるほど」


と俊哉は言ったがあまり理解していない。


「見ているだけじゃわからないですね」


彩が言った。


「そうですね、実際わからないと思います」


俊哉達は実際に浩一郎の強さを目にしている。


「高坂さん、スパーお願いします」


ジム生から声をかけられた。


「それじゃあ、後はフリーなので好きな時に帰ってもらって結構です」


浩一郎はそう言ってマットの方へ行った。


浩一郎さんって凄いね、と加奈子は言った。


「黒帯って相当強いんでしょう?」


「日本人でも黒帯は少ないらしいよ」


「でも大変そう」


4人はそう思った。押しかけて迷惑をかけてしまったかもしれない。


「まあ、私達には無理だわ」


そう結論付けたその時、浩一郎のスパーリングは緊迫していた。もしや浩一郎が負けるかもしれないと言うところでタイマーが鳴った。


「飯島さん、上手くなりましたね。危ないところだった」


「高坂さん、まだ手を抜いていますね。いつになったら本気でスパーしてくれるんですか」


「そもそも階級に差があるし、やはりフィジカル的に難しいですね。怪我をさせる訳にはいきませんし」


浩一郎は飯島を高く評価している。茶帯をあげても良いと思っている。


ジム生が帰って、浩一郎は1人、清掃をしている。飯島君が目下浩一郎の悩みどころだ。他のジム生からも苦情が出ている。飯島君は常に本気で、危うくスパー相手に怪我をさせかけた事もある。


「飯島君、相手のレベルに合わしてスパーをしないと」


「僕はいつも全力です」


「その内、飯島さんとスパーをしてくれる人が居なくなるよ」


「それでも構いません。俺は柔術に全てを賭けているんです」


彼の気持ちが理解できるからこそ、浩一郎も悩むのだ。何故なら浩一郎にもそう言った時期があったからだ。もう誰もスパーをしてくれない。自分が強くなり過ぎたから。そうして浩一郎も柔術を辞めたのだ。


「飯島君に俺のようにはなってほしくない」


浩一郎は事務所に戻って事務作業をした。


「飯島君をどうすれば良いか」


腕を組んで悩むのだった。

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