第35話俊哉と浩一郎の休日

浩一郎は目が覚めた。時計を見ると朝の6時だ。浩一郎の腕枕で眠っている俊哉をそっと枕に移動させてベッドから起き上がる。そっと俊哉の頬に触れてからキッチンに向かう。2人の朝食を作る準備だ。フライパンを熱して油を引いて卵を割り、落とす。その間にサラダを手早く作る。そうこうしていると俊哉が起きてくる。


「浩一郎さん、おはよう」


「おはよう。起こしてしまったな」


「ううん、良いんです」


まだ眠気が覚めないのかソファでぼんやりしている。


「休日に早起きですまないな」


「良い匂いですね」


「今日はパンにしたよ」


「美味しそう、いただきます」


浩一郎はトースターにパンをセットしてダイヤルを回した。浩一郎は見た目とは違い、とてもマメである。特に食事においては俊哉も感心するほど料理上手だ。


「浩一郎さんは私より料理が上手でちょっと怒ってます」


「まあ、怒るなよ」


そうこうしてるとトーストが焼き上がり、バターと蜂蜜をつけるのが浩一郎のこだわりだ。


「朝は甘い物を食べて脳を起こさないとな」


蜂蜜たっぷりのトーストは俊哉も好きだ。2人でゆっくりと朝食をとる。カフェボウルにカフェオレを注いで飲む。俊哉の嬉しそうな顔を見ると浩一郎も笑顔になる。食べ終えると浩一郎は食器を洗い、後片付けをする。俊哉はまたソファでぼんやりする。お腹が満たされるとまたうとうとしてしまう。


9時、2人はランニングウエアに着替える。俊哉はショートパンツにサポートタイツ、ジョギングジャケット。浩一郎もショートパンツにサポートタイツ、長袖のTシャツ。ジョギングシューズはお揃いだ。2人は部屋を出た。横に並んでゆっくりと走り始めた。普通ならストレッチや準備運動をするかと思われるが、浩一郎はある程度体を温めないと効果が無いと思っているのでまだしない。


「よし、着いたな」


少し離れた緑地公園はジョギングコースがあり、1週4キロとジョギングには良い距離だ。ストレッチを2人でする。


「体調は大丈夫だな?」


「はい、大丈夫です」


2人はゆっくりと走り出す。2人を追い越すジョガーも多いが浩一郎は決して急がない。むしろゆっくりすぎるくらいだ。


「よし、ペースを上げよう」


「はい、浩一郎さん」


俊哉は最初、すぐにバテてしまい、歩く事が多かったが最近は走れるようになった。初秋の空気はジョギングをするのに良い。ジョギングを終えた2人は交代でシャワーを浴びる。俊哉に先にシャワーをさせて、浩一郎は昼食の準備をする。今日は手抜き

昼食で、釜揚げうどんだ。鍋に水を張って、コンロに火を着ける。沸騰する間に生姜をすって、ネギを切る。


「浩一郎さん、シャワー空きました」


髪の毛をバスタオルで拭きながら俊哉は部屋着で出てきた。浩一郎もバスルームに向かう。俊哉が髪を乾かし終えるのと同時に浩一郎がバスルームから出てきた。2人はソファに座って休憩する。今日の夕食は天麩羅屋さんに行く予定だ。予約もしてある。


「今日のお昼はシンプルに釜揚げうどんだ」


2人は鍋を挟んでうどんを食べる。あっという間に食べてしまった。その後は2人の自由時間だ。浩一郎は読書、俊哉は簿記の勉強をする。途中、浩一郎はコーヒーを淹れてくれて休憩をする。2人はお互いの時間に干渉しない。だから俊哉も勉強に集中できるし、浩一郎も読書を楽しめる。時計は5時を示している。


「よし、そろそろ出掛ける準備をしようか」


2人は支度を始める。月に1度の外食の日、今日は「天麩羅なかや」だ。店に着いて入ると予約の旨を伝えるとカウンターに通された。早い時間に店に来たので客は居ない。


「俊哉。天麩羅はな、揚がったら親の仇を取るように食べるんだ。お喋りに夢中になるのは良くない」


コースを頼んでいたので次から次と天麩羅が揚がって来る。2人は会話もそこそこ、天麩羅に集中した。


美味しかったですね、と俊哉は言い、浩一郎も頷いた。秋の夜は夏を忘れたのか。心地良い風が吹いている。


俊哉の家までは浩一郎が車で送った。家の前で


「浩一郎さん、また今度」


「ああ、また今度な」


キスして俊哉は車を降りた。車が見えなくなるまで俊哉は手を振った。それを見ていた美紀は


「家の前で堂々とキスしちゃってさ」


と俊哉をからかい、家に入るのだった。

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