第51話怠け者の1日
金曜日。柔術の練習が終わった。月、水、金曜日のクラスを持っている。練習も好評でジム生も増えてきている。流石に土曜、日曜日は休みたい。俊哉との時間も大切にしたいと言うのも有るが、やはり疲れる。今日もジム生らとスパーリングをした帰りだ。家が明るい。俊哉が家に来ている。
「おかえりなさい、浩一郎さん」
「俊哉、今日はどうした?家に帰らないのか」
「うん、浩一郎さんが疲れて帰って来ると思って」
浩一郎は笑った。
「俊哉に心配されるとは、俺ももう歳だな」
「浩一郎さん、流石に疲れているのはわかりますよ」
そうか、と言って柔術着を洗濯機へ放り込む。
「晩御飯、もうすぐできあがりますから待っていてくださいね」
ありがとう、と浩一郎は俊哉に礼を言った。本当にありがたいからだ。浩一郎は普段は隙を見せないが家では怠け者であることを俊哉は知っている。ある日、ゴミ箱からカップラーメンの容器が出てきた。俊哉が珍しく怒った。
「浩一郎さん、疲れて面倒なのはわかりますがカップ麺はだめですよ。疲れているなら私が晩御飯を作りますから」
俊哉はそう言って金曜日はいつも食事の準備をしてくれる。浩一郎はそれが嬉しい。それに風呂も入れてくれている。浩一郎は疲れた体を湯船に沈める。深い溜息が出た。
「良い風呂だったよ。体が溶けそうだったよ」
「さすがに浩一郎さんでも疲れが隠せませんね」
「俺もいつまでも若くはないって事かな」
食事を済ませ、ソファに座る。もう11時だ。
「俊哉が来てくれるとどうしても頼ってしまうな」
「良いんです。頼ってください」
俊哉は笑顔で言ってくれる。俊哉の膝枕で浩一郎は疲れを
「そうだ、浩一郎さん、耳掃除しましょう」
「ありがとう。そこの机の引き出しにある」
俊哉が耳かきを持って来てまた膝枕になる。
「わ、凄い耳垢!浩一郎さん、何時から掃除していないんですか」
「覚えてないな」
俊哉は耳掃除の気持ち良さと俊哉の膝枕に甘えていた。
「俺は俊哉が居るとどうしても甘えてしまうな」
「甘えたらいいじゃないですか」
俊哉は耳掃除に夢中になっている。
「はい、こっちの耳は綺麗になりました。今度は反対側です」
浩一郎はぐるりと体を反転させた。
「ギャー!こっちも凄い耳垢!」
俊哉は驚いている。
「何もそこまで驚く事もないだろう」
「だって浩一郎さん、すごい耳垢ですよ」
ほら、見てくださいと俊哉に見せた。大きな耳垢の塊だ。
「これは大きいな」
まだまだ沢山ありますよ、と俊哉も夢中で耳かきをしている。たまにはこんな夜の過ごし方も良いな、と浩一郎は思った。
「俊哉も風呂に入ったら?」
「先にシャワーで済ませています」
「1番風呂に入れば良いのに」
「それは浩一郎さんのためにとっておきました」
気遣いばかりさせているな、と浩一郎は思った。以前の浩一郎なら静かなこの部屋で1人黙々と家事をこなしていた。しかし今は違う。俊哉が来てくれるようになって部屋が明るくなったような気がしている。俊哉は浩一郎のインテリアのセンスに合わせて自分の持ち物を変えている。シンプルで飾り気がない機能性を重視したものを選んでいる。
「浩一郎さん、先に寝たらどうですか」
「眠たそうに見えるか」
はい、と俊哉は言った。これじゃ俺は怠け者だな、と浩一郎は思った。俊哉が居るとつい甘えてしまう。でもそれも良いかと浩一郎はベッドに潜り込んだ。強烈な睡魔に襲われる。
「浩一郎さんは甘えん坊だな」
俊哉は浩一郎さんの枕元で静かに言った。
「さあ、私は勉強だ」
俊哉は簿記のテキストと問題集を持ち出して、浩一郎の机で勉強を始めた。
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