第50話冬キャンプ

「俊哉、キャンプに行こう」


「浩一郎さん、本気で言ってます?」


時は1月末の厳寒期である。俊哉は常々浩一郎さんからキャンプの楽しみについて聞かされてきたが何もこんな寒い時期にキャンプをする事はない。


「暖かくなればキャンプの時期だと思うかもしれないが、本当に楽しいのは真冬のキャンプさ」


なし崩し的に俊哉も参加する事になった。準備もあり、2月になった。天気予報は晴れを予想している。


「よし、今度の週末は冬キャン日和だな」


俊哉は持っている防寒着を全て準備した。ダウンジャケットだとどうだろうか?


「ダウンは穴が開くから良くないよ」


浩一郎さんに言われて急遽アウトドアショップに行く事になった。


「俺のおすすめはフリースの重ね着だな」


薄手のダウンの上に更にフリースのジャケットを着る。それが良いと浩一郎さんは言う。俊哉はとりあえず言われるままに買った。浩一郎さんも何か色々買っている。浩一郎さんの車の後部は荷物が沢山積み込まれている。それらは全てキャンプ用品だったのだ。


「よし、出発しようか」


キャンプ当日。準備を済ませた2人は車で出発した。行き先は山間部のキャンプ場。真冬でもやっているのだろうか、と俊哉は思ったが、意外と人がいる。浩一郎さんの買っているアウトドア雑誌でも冬のキャンプ特集があった。


「こんなに寒いのに結構人が居ますね」


「キャンプシーズンはとにかく人が多いんだ。静かに過ごしたい人はオフシーズンを狙うんだ」


車は川から離れた所に向かった。


「川沿いは気温が下がると寒くなるんだ。なるだけ離れている方が良い」


人が居た場所からはかなり離れた所に来た。今日はここにキャンプをすると浩一郎さんは決めたようだ。


「実はな、ここは何度か来ているんだ。俺の穴場スポットさ」


時間は午前11時。日差しが届いて割と暖かい。


「よし、手分けして準備しようか。俊哉は枯れ枝を集めて欲しい。松ぼっくりが有ると尚更良い」


その間に俺はテントを張るよ、と2人手分けして準備を始めた。俊哉はあまり森深く入るのは怖いので慎重に枯れ木を集めた。結構集まるものだな、と思った。ある程度集めたら浩一郎さんのテントを張っている所まで持って行く。準備は着々と進んでいるようだ。思えば俊哉はキャンプをした事が無かった。楽しみでもあったが夜の寒さが気になる。


「意外となんとかなるよ」


2人は焚火を囲って向き合っている。俊哉はアウトドアチェアを浩一郎さんの隣りに移動させた。2人身を寄せ合って焚火にあたっている。


「これを飲んだら暖かくなるぞ」


浩一郎さんがスキットルを俊哉に手渡した。小さなカップにスキットルのウィスキーを入れて飲んだ。喉が熱くなる。焚火にかざしていたフランクフルトも焼けている。浩一郎さんに勧められて食べると美味しい。お湯も沸いている。浩一郎さんはインスタントの味噌汁を作った。


「あんまり手の込んだ料理も大変なんだよ。手軽なのが良いんだ」


夜になって焚火だけが灯りの拠り所となった。寒いと思っていたが意外と焚火を囲んでいると暖かい。


「冬のキャンプも悪くないだろ?」


「はい、結構楽しいですね」


浩一郎さんは夜空を見上げて言った。


「俊哉、見ろよあの夜空を。星が沢山見えて自分がちっぽけに思えて来る。そうすると自分の悩みなんかも小さいものに思えてくるんだ」


白い息を吐きながら、2人は夜空を見上げている。


「眠くなったらテントで寝て良いよ。暖かい寝袋もあるから」


眠気に負けて俊哉は寝袋に入った。使い捨てカイロが入ってあるので暖かい。直ぐに眠りについた。


「良く寝ちゃった」


目が覚めると寒さで身震いした。浩一郎さんはテントに居ない。テントを出ると浩一郎さんはコーヒーを淹れているところだった。


「おはよう。コーヒーがちょうど出来たところだよ」


「浩一郎さん、寝ました?」


「うん、寝たよ」


パンも焼いてあって、朝食を2人でとった。焚火は夜より小さくなっている。


「じゃあ片付けしようか」


俊哉は焚火を消して後片付け、浩一郎さんはテントの撤収をした。早々と帰る準備だ。全てを済ませた2人は車に乗り込んだ。俊哉は助手席で眠っている。浩一郎は俊哉の寝ている姿を見て微笑んだ。





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