第31話涼子とストーカーその2

「高坂主任なら大丈夫よね」


お昼休み。4人は食堂に居た。暑いので夏場は食堂に集まる。


「でも不気味よね、相手は何を考えているのかわからないわね」


加奈子が言った。


「私が好きなら好きって言えば良いのにね」


涼子は蕎麦を食べている。


「涼子は綺麗だからね。社内でもファン多いと思うよ」


彩が何気なく言った。


「社内?」


「まさか」


「有り得るわね」


バラバラだったピースが1つになった。


「これは浩一郎さんにも伝えなきゃ」


俊哉はそう言った。


「あくまで推測よ、推測」


涼子は箸を止めて言った。


「でも有り得る話よ」


「見ず知らずの人間ならいきなり距離を詰めて来るかも知れないわ」


「知っているからこそ、ゆっくり時間を使えるのかもしれないね」


俊哉はちょっと、ちょっとと話題をさえぎった。


「この会話も聞かれているかもしれないわ」


「おっと、油断、油断」


4人は食堂を出た。


「とりあえず、高坂さんにしばらく手伝ってもらおう」


決定した。


土曜日。俊哉は浩一郎の家に居る。


「なるほど、社内の人間か。有り得るな」


浩一郎はそう言った。少しでも可能性があるならば視野に入れるべきだ。


「俊哉もそうなんだが、俊哉を含めて4人とも良く目立つんだ。男の俺から見てもそうだから、社内の男なら更にそう思うんじゃないか」


俊哉は考えた。


「何か新しい動きが有れば良いんだけど」


「まあ、しばらく俺が涼子さんと帰るよ」


「うん、お願いします」


「任せとけ!」


浩一郎さんは頼りになる、と俊哉は思った。


「ところであるアイデアを思いついたんだが」


浩一郎は俊哉に話し始めた。俊哉は真剣に浩一郎の話を聞いている。


「なるほど、それならできるかもしれませんね」


「先ずは涼子さんに警察に相談してもらわないといけない」


「すぐ警察に行くように電話します」


「うん、それが良い」


警察は実際、積極的には動いてくれない。むしろストーカーを逆上させる事はニュースでも良く取り上げられている。


「涼子さんに危害が加えられる前に何とかしないといけない」


浩一郎はそう考えている。


月曜日。涼子はいつもと同じ電車に乗り込んだ。特に違和感は無い。


「今朝は問題無いわ」


日曜日に俊哉から作戦を聞いて俄然がぜんやる気になった。面白い大捕り物だ。涼子の特徴は自分の危機すらも客観視して冷静になる事だ。それ自体はむしろ良い事だが度が過ぎれば今回のように危険に身を晒す事になってしまう。


「今日、作戦決行よ」


お昼休み、4人は自分達の役割分担を確認した。


会社の定時になった。涼子はまだ仕事をしている。浩一郎は仕事を終えて連絡を待っている。俊哉も同じく待機している。


俊哉のスマホが鳴った。涼子からの合図である。浩一郎の方を見てうなずいた。作戦開始である。午後7時。夜になった。残暑が厳しい1日だった。涼子は浩一郎と帰っていない。ゆっくりと帰途についている。人通りの無い寂しい所に通りかかった時、涼子は襲われた。男だ。ナイフを持っている。無言で斬りかかって来る。シャツが切れた。しかし涼子は背中を見せずに後退する。男はナイフを持ってなお涼子に向かって来る。その時、黒い影が男を襲った。黒い影は男を軽々と持ち上げ、地面に叩きつけた。男はだらんとうなだれた。


「涼子、大丈夫?」


俊哉、加奈子、彩が涼子に駆け寄る。涼子は大丈夫と言っているが出血している。襲って来た男は浩一郎に完全に組み伏せられている。しばらくすると警察のサイレンが聞こえて来た。





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