第30話涼子とストーカーその1

「うーん何だろう、この感じ」


涼子は出社の時、違和感を感じるようになった。帰宅時も同じだ。


「涼子、自分の直感を信じるのよ」


涼子は罠を仕掛ける事にした。帰宅時、1本道を通る。脇道も隠れる場所も無い。ここまで引き付けて正体を掴む。


午後6時。まだ明るい。1本道を入って道の中頃に来た時、パッと後ろを振り返ったら慌てて去って行く影があった。性別は男か女かわからない。


「と、こんな事があったのよ」


「怪しいわね」


「どうしたものかねえ」


割と軽く涼子は感じていると見て取れる。俊哉が言った。


「涼子ちゃん、危機感が無いよ」


「昨今のストーカーはマズイから、舐めてかかると酷い目に遭うわよ」


加奈子が言う。


「じゃあどうすれば良い?」


「警察に相談してもダメだろうね」


「これは対策しないとヤバいよ」


対策を考えようという意見で4人は別れた。涼子もこのままでは不味いな、と感じるようになった。秘書課は残業も多く、1人夜道を帰る時も多い。とは言え、毎日ストーキングされている気配は無い。それも困った事である。その夜、1本道でふと振り返る。誰も居なかった。


「浩一郎さんに頼んでみようか?」


俊哉が3人の中で1番心配している。なるほど、高坂主任なら頼もしい。


「俊哉ごめん。お願いできるかな」


涼子は独立心が強い。何でも1人で解決しようとする。俊哉が心配するのはその事なのだ。


「高坂さん、よろしくお願いします」


「涼子さん、どうも」


俊哉のはからいで帰宅時、浩一郎が涼子と一緒に帰る事になった。


「女の子の帰り道にしてはちょっと寂しいな」


浩一郎は涼子に言った。


「そうですか。自分では気が付かないんですが」


「つけられてるね」


浩一郎が言った。


「本当ですか」


「ああ、つかず離れずの距離だ」


絶対に後ろを見ちゃいけない、と浩一郎は言った。


「じゃあ、こうしましょうか」


涼子が浩一郎と腕を組んだ。


「なるほど、いいアイデアだ」


「良いでしょう」


「視線を感じるな。見られている」


涼子は自宅のマンションに着くとオートロックを解除して中に入った。


「家までつけられてるな」


浩一郎は言った。


「直ぐ帰るのも不自然ですから、お茶でもどうですか」


「そうしたほうが良いかもしれないね」


涼子は浩一郎を家に招き入れた。綺麗な部屋だ。


「コーヒーが良いですか」


「頼みます」


「ベランダが道路に面していなくて良かったですね」


「やっぱり危ないですか」


「明かりで居るか居ないかわかりますからね」


テーブルを挟んで2人は向き合った。


「何か心当たりとか有りますか?」


「いえ、特にありません。会社帰りにスーパーとコンビニに行くくらいです」


そうですか、と浩一郎は言った。


「涼子さんは綺麗だから、目立つんですよ」


「あまり意識していませんが」


「こんなご時世ですから、気を付けるに越したことはありませんね」


1時間ほどして浩一郎は涼子の部屋を後にした。周囲を見渡したが人の気配は無い。


「もう帰ったか」


浩一郎は注意しながら帰った。帰宅して俊哉に連絡した。


「確かに尾行されているな」


「浩一郎さん、すみません、しばらくお願いできますか」


「ああ、良いよ。その方が良いだろう」


俊哉との電話を切り、浩一郎は考えた。


「これは人手が必要だな」


作戦を練る事にした。




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