第16話嫉妬

総務部での部下からの信頼が高い先輩は人気が有って、モテる。主任になってデスクの配置が変わり、誰からも良く見える位置になった。当然、女子社員とも話をしているのが俊哉からも見える。心の中に何かもやもやしたものがある事に俊哉は気が付いた。


「先輩が女子社員と話をしているのが気になる」


お昼休み、4人でテーブルを囲んでいる。俊哉がそうポツリと言った事に3人は反応した。


「それは嫉妬ね」


「当然よね、付き合ってる彼氏が他の女と仲良くしているのは」


「大丈夫よ、気にしない、気にしない」


3人がなぐさめてくれる。


「みんな、ありがとう」


加奈子が提案した。


「オープンにしちゃえば?」


「そんな事したら女子社員から総スカンだよ」


俊哉がそう言うとみんな悩んだ。


「まあ、俊哉の思い過ごしだよ。それに離れて行ってほしくなかったら積極的に俊哉から行かないと」


うん、そうだね、と俊哉は言った。今週の週末は先輩の家で過ごす約束をしている。


「じゃあもうグイグイ行くしかないじゃないの」


涼子はサンドイッチをかじりながら俊哉に言う。


「そうそう、負けちゃダメよ」


俊哉はデスクに戻った。先輩は仕事をしている。ぼんやりと眺めているとふと顔を上げた先輩と目が合った。すぐに先輩は下を向いたがメールが届いた。先輩からだ。


「日曜日、会うのが楽しみだな」


短いメッセージだったが俊哉にとってそれで十分だった。


「よし、仕事頑張るぞ」


小さくグッとガッツポーズをして俊哉はパソコンに向かった。


日曜日。俊哉は先輩のマンションに居た。インターホンを鳴らすと先輩はすぐ出てきてロックを解除してくれた。


「わざわざ来てくれてありがとうな」


先輩はそう言って家に入れてくれた。


「今日は髪の毛巻いているんだな」


はい、今日は巻きたい気分だったので、と俊哉は答えた。先輩は些細な事にも良く気が付く。


「田宮。最近俺をよく見過ぎだぞ。どうした」


「先輩が女子社員と仲良くしているところが気になるんです」


こう言う心情を素直に相手に伝えるのは俊哉の良いところである。


「そんなに気になるか」


「はい、気になります」


「そうか、じゃあこうしよう」


すっと俊哉を右腕で自分に引き寄せて抱きしめた。


「この時間を忘れないようにすれば良いだろう」


先輩は俊哉にキスをした。


「先輩を私の物にしたい」


「もう十分なってるだろ」


「もっと抱きしめて」


先輩はギュッと俊哉を抱きしめた。身長差が有るので先輩は小さくなる。


「先輩、大好きです」


そう言った後、俊哉のお腹が鳴った。


「お腹は正直だな。昼飯にしようか」


「先輩にはムードが無いんですか」


「田宮はロマンチストだな」


「そんなことないです」


よし、昼飯の準備をしようと先輩は提案した。今日のお昼ご飯はキムチチャーハンだそうだ。俊哉も手伝おうかと聞くと1人で大丈夫だと言うのでソファに座って窓からの景色を見た。五月ももう終わりで、もうすぐ6月だ。今年の梅雨は空梅雨らしい。先輩を見ると中華鍋をふるっている。そうだ、もう心配する事は無い。先輩は私に惚れている。ソファから立ち上がり、そっと先輩に近寄り、抱き着いた。


「どうした田宮」


ギューッと抱きしめながら俊哉は言った。


「先輩は私の物ですよ」


「田宮は俺の物だよ」


俊哉は先輩の背に顔をうずめる。


「もう出来上がりだよ。食事の準備をしてくれ」


はい、と俊哉は答えて手伝った。

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