第77話出た!

俊哉は目撃した。1。そんな馬鹿な、と思って目をこするといつの間にか見えなくなっていた。しばらくして浩一郎さんが帰って来た。


「スイーツも買ってきたよ」


呑気のんきな浩一郎さんに俊哉は言った。


「浩一郎さん、信じられないかもしれませんが、幽霊が出ました」


「それは本当か?」


「本当なんです。しかもですよ、私そっくりなんです」


「またまた俊哉も冗談を。よしんば幽霊が出たとしてもさあ、俊哉とそっくりなんてあり得ないだろ」


シュークリームを食べようとビニール袋から取り出した。


「まあ、前から出るって叔父さんも言ってたし、今更ながら驚くほどじゃないだろ」


浩一郎さんはトイレへ行った。用を済ました浩一郎はトイレのドアを開くと俊哉がいた。


「俊哉もトイレか?」


そう聞いても俊哉は答えない。トイレを我慢していたのかもしれない。はいどうぞと浩一郎は譲った。トイレから帰って来ると俊哉が居る。


「おい、俊哉、今トイレに来なかったか?」


「いえ、ずっとここに居ましたよ」


なるほどなあ、と浩一郎は言った。


「俊哉。この家は。不思議な事だが事実だ。だけど何が起こるかわからないから様子を見てみよう」


「と言うか、浩一郎さんの隣りに居るじゃないですか」


えっと浩一郎が横を見ると。浩一郎は混乱した。


「おい、本物の俊哉はどっちだ」


「こっちですよ」


「私です」


声もそっくりだ。浩一郎は試しに隣の俊哉に手を出した。手はくうを切る。そして向かいの俊哉にも手を出してみた。今度はさわれた。


「なるほどなあ」


浩一郎さんは感心している。おめでたい人だ。


「つまりだ、この家には俊哉そっくりの幽霊が居て、前の住人を怖がらせていたと言う事か」


「私は怖らせる事などしていません」


俊哉にも浩一郎にもはっきり聞こえた。声が聞こえると言うより、心に直接響いてくるような音に近い。


「俊哉、こういう時はどうしたらいいんですか」


「念仏とか唱えたら良いんじゃないですか」


不思議と2人には怖いと言う感情は持たなかった。恐ろしいと言うより不思議な体験だ。


「まあまあ、座りましょう」


俊哉の提案で3座った。


「まあ、なんですが、シュークリームをお供えします」


浩一郎さんはシュークリームを差し出した。


「貴方、面白い人ね」


もう1人の俊哉は白のワンピースを着ていた。良く似合っている。しかし客観的に見たら奇妙な光景だ。浩一郎は2人の俊哉と会話している。幽霊ではない俊哉が話しかけた。


「貴女のお名前は?」


「川端ヤスエと申します」


ほう、川端さんですか、と浩一郎さんは言った。


「なぜ私達に姿を見せるんですか?」


「楽しそうだったから」


川端さんはそう言った。耳で聞こえると言うより感じると言った方が正しい。俊哉は川端さんに話しかけた。


「川端さんには色々と聞きたい事が有るけど、今日はもう、私達は帰りますね」


川端さんはゆっくりうなずいた。


「カフェオレとシュークリーム、置いて行きますね。良かったらどうぞ」


そうして俊哉と浩一郎さんは家を出た。車に乗り込むと浩一郎さんは言った。


「いきなり出てきたじゃないか。映画なら少しずつ正体をあらわすが」


「幽霊も色んなタイプが居るんじゃないですか」


「でもさ、怖い感じじゃなかったな」


「怨霊とも違うみたいだし、何でしょうかね」


2人は考え込んでしまったのだった。しかし不思議な感覚だった。


「何か意味があってあそこに居るんでしょうね」


「そうだ、あの家に何か原因があるのかもしれない」


この不思議な体験と感覚はずっと続くのを俊哉と浩一郎は知らなかった。

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