第78話本当に出るのか

いつもの4人が食堂に集まっている。


「同棲おめでとう」


3人が喜んでくれた。


「前進ね」


涼子も喜んでくれた。


「でもね、問題も有るのよ」


俊哉は事の顛末てんまつを話した。ひょっとしたら俊哉と浩一郎さんだけが見える幻覚かもしれない。


「でもありがちな話よね」


俊哉が話し終えると加奈子が言った。確かに引っ越した先で幽霊が出た、とは良く聞く話である。


「じゃあ確かめてみるしかないわよ。私、霊感ある子を呼ぼうか?」


「いや、そんなに大袈裟にしないで」


俊哉は言った。


「じゃあ引っ越し祝いも兼ねてみんなで新居を訪ねよう」


話は決まった。


俊哉、浩一郎宅。浩一郎は風呂に入っていた。頭をシャンプーして洗い流すと目の前に川端さんが居た。じっと浩一郎を見ている。


「川端さん、お風呂は駄目ですよ」


「貴方はたくましい体ですね」


川端さんは気まぐれである。2、3日現れないと思うと突然俊哉と浩一郎の前に現れる。でも別段それ以上は何も起こらないし、2人も慣れてきた。風呂場に現れた川端さんだが、すぐに消えた。


「川端さん、風呂場に現れたよ」


「そういや私は会ってませんね」


夕食を取りながら2人は話をしている。浩一郎さんは小さなテーブルをリビングに置いて、川端さんへのお供え物を欠かさず置いている。


「川端さんって何歳くらいですかね」


「17、8歳じゃないか」


「確かにそれくらいですね」


俊哉は同棲祝いと心霊体験を兼ねて3人が家に来ることを告げた。浩一郎さんは


「川端さんは出てこないと思うが」


土曜日。3人がやって来た。


「お邪魔します」


3人は家を物色する。


「良いお家ですよね」


彩が言った。浩一郎さんはうん、古いが良い家なんだと答えた。3人は直ぐにお供え物の置いてある小さなテーブルを見つけた。加奈子が浩一郎さんに聞いた。


「高坂さん、やっぱり霊が出るんですね」


「今日は賑やかだし、出てこないと思うよ」


浩一郎さんを除いて4人は酒を飲んだ。わいわいとやっていたら川端さんも出てこないだろうな、と浩一郎は思った。案の定、川端さんは出てこない。飲み会は解散となり、浩一郎さんは3人を駅まで車で送って行った。後片付けを俊哉がしていると川端さんが現れた。俊哉は川端さんに話しかけた。


「騒がしいのは苦手ですか」


川端さんはこくりとうなずいた。


「お茶でもお供えしますね」


暖かいほうじ茶を湯飲みで川端さんの座っている席に置いた。川端さんはありがとうと礼を言ったので俊哉は驚いた。俊哉は後片付けがあるのでキッチンで忙しくしている。川端さんはじっと椅子に座っている。こんな時、どう話しかけたら良いんだろうかと俊哉は考えた。


「川端さんはどうしてお亡くなりになったんですか」


「肺結核です」


俊哉は慎重に言葉を探している。精一杯考えた。


「昭和の何年に亡くなられたのですか」


「終戦の年です」


なるほど、と俊哉は思った。青春を病で失ったのである。未練も有るだろう。


「俊哉さん」


「はい」


「俊哉さんは声が低いですが地声ですか」


「元々男だったんですが女になったんですよ」


少し沈黙があった。


「殿方が女性になったというのですか」


「はい、そうです」


「私にそっくりなのに不思議ですね」


俊哉が食器を洗い終えてテーブルを見るともう川端さんは居なかった。川端さんも驚いただろうな、と俊哉は思った。でも川端さんの事を少し知る事ができて良かったと俊哉は思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る