第88話煩わしい事

「田宮さんってさあ」


女子社員が話しかけてきた。


「肌綺麗だし、色白いし綺麗よね」


そんな事無いですよ、と俊哉は答えた。


「でも肌質も良いよね、化粧水は何使ってるの?」


「へちま化粧水です」


え、と女子社員は凍りついた。


「スーパーとかで売ってるやつよね」


「はい、スーパーで買っています」


「ファンデはどこの使ってるの」


「ファンではデパコスです」


使うところはお金を掛けるのね、とその女子社員は言った。すると話を聞いていたのか何人か集まって来た。


「普段気を付けている事とか有るの?」


「あまりお肉を食べないくらいですね。食事には気を使っています。後は運動ですね。ジョギングしています」


ちょっと良い?と髪の毛も触られた。


「素敵な髪ね」


ありがとうございます、と俊哉は答えた。


「ストレートのロング、似合っているわ」


「いえ、それほどでも」


俊哉はそろそろ開放してほしいと思っている。


「君達、何をお喋りしているんだ。デスクに戻りなさい」


係長が声を掛けてきた。俊哉は助かった。


「田宮君も毅然とした態度で居ないと駄目だよ」


すみません、と係長に謝罪した。ひょっとしてわざと怒られるために彼女らは話しかけてきたのかもしれない。


「それは考えすぎさ」


浩一郎さんはそう言った。今日は浩一郎さんの作ったカレーが晩御飯だ。


「女の子はお喋りが大好きだからな。以前から俊哉が気になっていたんじゃないのかな」


「そうなんですかね」


思えば俊哉は女心を知ろうとしなかったのかもしれない。それは1番大切なものなのかもしれない。


「でもな、俺はそんな女じゃない俊哉が好きだよ」


浩一郎さんはいつもこうだ。


「まあ、あんまり気にするな」


浩一郎さんはそう言ってくれた。優しい人だ。


翌日、神崎と坂田さんに仕事の指示をしているとき、また女子部員が話しかけてきた。


「すみません、今仕事中です」


やんわりと断った。


「ちょうど良いわ。神崎君、あの人に仕事の質問をしてきなさい」


神崎は答えた。


「でもあの人、質問するなオーラ出していますよ」


「それも勉強よ」


昼休み、いつもの4人は屋上に居る。


「女ってさ、そう言うのやたら聞きたがるよね、でも自分は真似しないのよ」


「やだやだ。陰湿よね。女の嫉妬は」


「私達も女だけどね」


だからお昼休みは総務部でご飯を食べたくない。必ず囲まれるだろうから。やっぱりこのお昼休みが良い。


「営業はそんな暇無いけどね」


加奈子はおにぎりを食べながら言った。


「辛子明太子、美味しい」


「俊哉も適当にあしらうと良いよ」


涼子が言った。秘書課でも良く有るらしい。


「私も適当に答えてるよ。本当に使っているものは内緒よ」


俊哉は腹の探り合いのような会話は好きじゃない。


「女同士の仲も凄い性格悪いよ。気を付けないとね」


彩も俊哉にそう言った。


「なんでそんな陰湿な事するんだろう」


「足の引っ張り合いが好きなのよ」


俊哉は気持ちよく仕事ができるならそれでいい。多くは要求しない。でも女心がわからない訳では無い。複雑な心境である。


「まあ気にしない事。よし、解散」


加奈子の言葉で4人は別れた。俊哉も総務部に戻る。さあ、仕事もある。集中しよう。



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