第43話難しいね

「そうか、彩さんフラれたか」


「うん」


2人は晩御飯を食べている。鮭のホイル焼きとほうれん草のおひたし、豆腐とネギの味噌汁だ。


「そうか、ちゃんとフォローしてあげないとな」


トランスジェンダーの恋愛は重要な問題である。それは女性として社会から認めれれると言う超えられない壁が厳然としてあるからだ。俊哉と浩一郎はその点で言えばかなり特殊な分類をされるのではないか。


「恋愛相談は乗れても最後は本人次第だからね」


俊哉はそう浩一郎さんに言った。


「ところで思うんだが逆の場合、女性が性自認が男の場合の恋愛はどうなるんだ?」


「それも難しい問題だと思う」


その場合もやはり本人が乗り越えられない壁、男として子供を作れないという事はMtoF、FtoM、共通する問題だ。


「医療でシンギュラリティが起これば子供を作れたりするかもしれないな」


「シンギュラリティ?」


俊哉が浩一郎さんに聞いた。シンギュラリティとは技術的特異点の意味でまず発生するのは医療ではないかと言われている。


「まあまだ先の話だけれど、ひょっとしたら性転換手術でも進歩で性機能も出来るかもしれない」


「夢みたいな話だね」


「夢になるかどうかは今を生きている人間次第だな」


彩さんの話から脱線してしまったな、と浩一郎さんは俊哉に謝った。


「俊哉がお世話になっているから俺にも力になる事ができれば」


「浩一郎さんの気持ちもわかるけど、これは時間が解決してくれるんじゃないかな」


浩一郎は味噌汁を飲んで言った。


「いっその事、好きな人がいるって言われた方が納得するな」


「そこです。誰からも嫌われたくないのはわかるけど、彩さんに言った言葉は残酷だと思う」


なるほどなあ、と浩一郎さんはうなずいた。


「男と女って難しいなあ」


「でも楽だと思いますが」


「そうかい。詰まるところは人間関係だと思うが」


「そう言えば浩一郎さんは防衛大ではどうでした?」


「いやあ、彼女なんて出来たら嫉妬される世界だよ」


「そうなんですか」


「防大内での恋愛は内恋ないれんって言って禁止されているんだ」


「それは厳しいですね」


「防大生同士が監視し合ってるからとてもじゃないが内恋なんてできない」


「じゃあ外に彼女作れば良いじゃないですか」


「それが学業やらなんやらでとてもじゃないが恋愛する時間が無い」


「よく4年間も耐えれましたね」


「ああ、あの時の苦労があるから、今はどんな事が有っても耐えられる」


「おっと、また話が逸れたな」


浩一郎さんは少し考えてある提案をした。


「そうだ、カニでもみんなで食べに行こうか」


「良いですね。美味しい物食べるのは」


「ちょっと車で走れば、カニを食べさせてくれる温泉宿とか有るだろう」


「それは良いですね。みんなに伝えておきます」


「個室の露天風呂が有るところが良いな」


浩一郎さんは見た目よりフットワークが軽い。晩御飯を食べ終えて、後片付けをしたらネットで調べ出した。


「結構条件に合う温泉宿、沢山あるぞ」


ほら、見てよ、とモニターを俊哉の方に向けた。


「わあ、素敵な旅館が沢山有る」


「どうだい、なかなか良い旅行になると思うけどな」


「でも、私は浩一郎さんと2人で過ごしたいな」


「部屋を別けたら良いじゃないか」


あ、そうか、と俊哉は言った。


「カニはみんなで楽しんで、後は部屋を別にすれば2人の時間も作れるよ」


良いアイデアだと俊哉は思った。明日、ロッカールームで提案してみよう。

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