第44話みんなで旅行

「ねえみんな、年末は温泉宿でカニを食べない?」


俊哉の提案に加奈子が喰いついた。


「良いじゃない、カニを食べて温泉。最高じゃない」


「浩一郎さんが車を出してくれるって」


涼子と彩も賛成した。


「高坂さんが車を出してくれるなんて最高じゃない。ベンツのGクラスに乗って旅行よ」


全員即賛成した。俊哉は朝礼前の浩一郎さんを捕まえて、


「例の件、全員賛成です」


「うん、わかった」


この会話だけでは周囲も仕事の話だとしか思わないだろう。朝礼が始まった。


「年末に旅行、久し振りね。何年か前にみんなで行ったわね」


「ああ、個室の露天風呂ね」


社員食堂で4人は会話している。


「予算は3万円くらいで良い?」


加奈子、涼子、彩も賛成した。


1泊2日の小旅行だ。カニ食べ放題、個室温泉付きプラン。


「今から楽しみが増えたわね」


今11月だから急がないと予約が取れないかも、と4人が思案していると


「もう予約、取ってあるよ」


俊哉の隣に浩一郎さんが座って言った。


「流石、高坂主任、行動が早い」


加奈子が言うと


「なに、お安いものです」


と浩一郎さんは言った。ラーメンとカツカレー。


「食べ盛りの高校生みたいですね」


「良く言われるよ」


「じゃあ皆さん、俊哉の提案でOKですか」


OK、と4人が言った。浩一郎さんはスマホを取り出し、少し触って、言った。


「では29日と30日の2日間で良いですね」


「良いタイミングで予約取れましたね」


涼子が言うと、浩一郎さんは


「年末年始は予約取り辛いんだけどこの手前は意外と取れるんですよ」


浩一郎さんはスマホをポケットに入れた。


「麺が伸びる伸びる」


ラーメンを食べている。


「良い食べっぷりよね」


「見応えがあるわ」


涼子と彩が言った。


「ずっと見られていると恥ずかしいです」


浩一郎さんは箸を止めた。


「よし、我々は休憩スペースに行きましょうか」


三洋商事には休憩スペースが用意されているが、使う人間は限られている。業務に忙しいのも有るが、なかなか使いにくい。会社の不思議なものだ。畳の上に靴を脱いで

上がる。


「靴脱げると良いね」


彩は足をパタパタさせた。


「この、椅子じゃなくて畳って言うところが渋くて良いよね」


良い、良いと加奈子の意見に同意する。


「ああ、横になりてぇ」


涼子は言ったが加奈子にたしなめられた。


「服装が乱れるわよ」


秘書課の部員である。それはいけない。


「女子ロッカールームは天国らしいよ」


女子社員は業務のある社員以外はロッカールームに行くくらいだ。


「でもそのおかげでこの綺麗な畳を味わえるわ」


彩はリラックスしている。


「もう来月12月よ。1年早いわね」


「そうそう、あっという間。仕事に追われてこうなるのよ」


「新人の時はこうする余裕も無かったね」


俊哉が言うと


「良い意味でも悪い意味でも三洋商事ここに染まっちゃたんだよね」


「でももう1年前には戻れないわ」


「来年の新入社員はどんなのが来るかな」


「さあ、見当がつかないわ」


「そりゃ壮絶な入社競争よ」


三洋商事は形だけ新卒者の日程で採用活動が行われているが、制限は無いのでありとあらゆる世代が入社試験を受けにやって来る。三洋商事の入社試験の難しさは他社の追随を許さない。記述式問題も他社の数倍はある。


「さあ、休憩もおしまい。カニ旅行も決まったし、頑張ろうか」


加奈子が言うと全員立ち上がった。


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