第38話女装はどうなの?

「なあ俊哉。女装はどうなんだ?」


ふいに浩一郎にそう聞かれて俊哉は戸惑った。


「性自認は男だけど、女性になりたいっていう人達かな」


「それはトランスジェンダーとどう違うんだ?」


「うーん、どう違うんだろう」


2人で考えてみた。


「浩一郎さんは女性の服とか着てみたい?」


「いや、全然。着たいとも思わない」


「多分、それがノーマルな男性だと思う」


「すると女装する男達は何なんだろうな」


こう言う対話の時にいつもの3人が居れば良いのに、と俊哉は思った。


「トランスジェンダーの人達と違って、変身願望や現実逃避したいんじゃないかな」


「そうか、女装も個性の1つか」


「多様性と言われる事も多いけど、そう言われてみれば個性の1つかもしれない」


「でも女装した男がロッカールームに入ってきたら嫌だろ?」


「絶対に嫌」


やっぱりそうなるよな、と浩一郎さんは言った。


「それって俊哉達当事者には結構問題だよな」


「うん、そう。大問題です」


浩一郎が作った干し芋を2人で食べながら話をしている。


「この干し芋美味しい」


「だろ?ちょっと火であぶっても美味しい」


「で、問題なのはトランスジェンダーか単なる個人的な嗜好か曖昧だな」


干し芋で話題を逸らせようとした俊哉だったが失敗した。


「難しい話だよ」


最初は女装で満足していたがいつの間にか女性になりたいと言うのはどうなんだろう。俊哉もわからなくなってきた。


「その問いには答えが無いんじゃない?」


晩秋の屋上は昼間だと何か羽織ればそれほど寒くない。4人はその話題でもちきりになった。


「実際、女装から人と私達は違うんじゃない?」


加奈子は言った。


「私から見たら女装の何が楽しいのかわからないわ。女の服装が好きだけど女を抱くのでしょ?私達とは違うわ」


涼子も意見した。俊哉はこの話題には結論が出ないと考えた。


「実際、はっきりとした線引きは出来ないんだよね」


そうね、と4人は同意した。


「と言う結論になりました」


夕食は白菜と豚肉のミルフィーユ鍋。浩一郎さんの好きな鍋だ。簡単にできるしお金も掛からない。


「そうか、4人で結論が出ないんだったらやっぱり俺と俊哉では結論が出ないよなあ」


鍋いっぱいに敷き詰められた白菜と豚肉はあっという間に無くなっていく。


「あのね、浩一郎さん、答えの出ない問題も有ると思うの」


「うん、実際に女装が好きな人とも話をした事が無いからな」


「実は私は女装をする人が嫌いなんです。私達から見たら気持ちが悪い。いったい何を考えて女装するのか知らないし、知りたくもない」


「そうか、気分を悪くさせたな。すまん」


浩一郎さんが俊哉に謝った。しかし浩一郎が謝る問題では無かった。それは俊哉がわかっている。


「実際にそう言ったの研究している人は居るのかな?」


「研究分野はどうなるのか。心理学か」


闇深い森の奥に2人足を踏み入れたようだ。


「なあ俊哉。言い出しっぺの俺が言うのもなんだが、この話題はもう止めにしようか。実際答えなんて無いしな。女装を楽しみたかったら楽しめば良いだけの話だ」


浩一郎さんの思考はシンプルだ。無駄な物を削ぎ落していって結論に到達する。だから結論もシンプルだ。でもトランスジェンダーについてはどう思っているのか気になる。


「それはもう、目の前にが存在しているのだから、後はゆっくり理解を深めれば良い」


浩一郎さんはそれ以上は言わなかった。それで良いと俊哉も思った。



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