第39話彩の恋
「もしもし、彩、どうしたの?」
彩が久しぶりに俊哉のスマホに電話を掛けてきた。
「俊哉、相談が有るの。今度の土曜日、会えないかな」
うん、良いよ、と待ち合わせの場所を決めて電話を切った。彩にしては珍しい。どうしたんだろう。彩は俊哉と付き合いも長い。4人の内では大人しく、発言も少ない。でもここぞと言う時は自分の意見をしっかり言える芯の強い人だ。
「という事で土曜日は夜に浩一郎さんのお家に行く事になります」
「ああ、わかった。食事はどうする?」
「食事は食べるので要らないです」
「わかった。夜道は気を付けてな」
待ち合わせ場所にはもう彩が来ていた。
「ごめん、彩。待った?」
「ううん、大丈夫。私が早めに来ただけだから」
彩がそう言うのは珍しいな、と思った。待ち合わせにどんなに早く来ても何も言わないのが彩なのだ。
「それじゃあカフェに行こうか」
2人は静かなカフェに入った。彩が賑やかなカフェは苦手なのを俊哉は知っている。席に着くと2人共ケーキセットを頼んだ。
「それで彩、相談って何?」
「私、好きな人が出来たんだ」
「彩、良かったね、おめでとう」
大人しくしている彩から珍しく積極的な事を言ったので俊哉も思わずおめでとうなどと言ってしまった。それくらい今までに無かった事なのだ。
「相手は会社の人?」
「うん」
「どんな人?」
「優しい人」
彩は4人の中で1番線が細く、女性らしい。この2人を見ても元男だとは店員もわからないだろう。
「俊哉は高坂さんとどうやってきっかけを作ったの?」
「私の場合は新人教育の時がきっかけかな」
「そうなんだ、良いな、羨ましい」
「彩は普段好きな人とはどう接しているの?」
「仕事上の連絡くらいかな」
「そうか、接点は有るんだね」
うん、と答えて彩はコーヒーを飲んだ。俊哉はまだ彩が本音を言えていない事に気が付いていた。
「で、本当は彩がどうしたいかだけだと思うよ」
「そうだよね、自分の気持ちに正直にならないといけないね」
俊哉が思うに考えに考え抜いてどうにもならず、俊哉に助けを求めているのを感じた。俊哉も考えた。
「少しずつ、会社で接点を多く作って行けば良いと思うよ」
恋愛、こと会社内では慎重にならないといけない。とりわけ私達は恋愛において異質なのだ。
「本当に少しずつだよ、少しずつ」
「うん、わかった。そうしてみる」
カフェを出て別れ際に言った。
「本当に俊哉が羨ましいよ」
浩一郎さんの家に着いて、彩と会っていた話をした。
「そうか、彩さんも好きな人が出来たんだな」
「出来るだけ協力してあげたいんだけど他部署だし、応援も難しいです」
「そこはもう、大人の恋愛ってやつだから、彩さん次第だな」
2人がそう語り合っている時、彩は家に帰らず、街を理由もなく歩いていた。カップルが向こうからやって来るとつい視線がそちらに行ってしまう。
「こうしてフラフラ歩いてたって仕方ないじゃない。帰ろう」
日が暮れると寒さが身に染みる。今年は暖冬だとテレビで報じていたがそんな事は無く、厳しい冬を告げるかのようだ。彩は自宅に戻った。彩はインテリアを好まず、殺風景に思える部屋だが、彩は気に入っている。
「今日はなんか疲れたなあ」
ベッドに倒れ込んで独り言を漏らした彩だった。
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