第156話言い争い
「何よ、このホモ!」
「そんな言い方ないじゃないですか」
総務部で言い争いが始まった。事の発端は女子部員と神崎の2人の仕事の連携が上手く行かずミスが発生してしまった。互いの仕事の
「どうしたんだ、神崎」
俊哉は神崎と女子部員にそれぞれ話を聞いた。しかし双方感情的になっており、話が食い違う。
「それぞれ1人づつ話を聞くから神崎はデスクに戻って」
俊哉は女子社員から事情を聞いた。その話からは双方の連絡ミスが原因だった。細かく確認、連絡し合えればできた仕事だった。
「どうせ主任は神崎の肩を持つんでしょう」
「いや、そんな事は無い。喧嘩両成敗ではないが君にも落ち度があった」
「そもそもホモとかと仕事が上手く行く訳ないじゃないですか」
「そんな事は仕事上では関係の無い話だ」
俊哉は続けた。
「君は仕事も出来るし私は評価している。確かに神崎のミスはミスだ。起きてしまった事は仕方がない。お互いに協力し合って仕事を続けて欲しい」
俊哉は女子社員の普段ある不平や不満を聞いた。女子社員からは芋づるのように出てきた。普段からゲイに対して嫌悪感を抱いているようだ。
「君のいう事はわかった。三洋商事は多様化を目指している。その中に私も入っている。だから君にもそれを全て理解しろとは言わない。こんな人も居るな、程度で接してほしい。あと、ホモと言う言葉は慎みなさい。ゲイが良い」
全て吐き出したのか女子社員は満足してデスクに戻った。今度は神崎の番だ。
「主任、ホモとは酷い言い方ですよ」
「いや、それは彼女の言い過ぎだ。注意しておいた」
神崎も感情的になっている。そうした時、感情的な部分を刺激せず、ゆっくりと話を聞いてあげる。これは浩一郎から教わったテクニックだ。
「しかし神崎。君も仕事を突き進んでしまう傾向がある。1人ならそれで良いんだが誰かと共同して仕事をする場合は足並みを揃えないといけない。例え相手が自分に好意を持っていなくても大人としての対応を求められる」
俊哉は神崎を説得している。実際神崎は仕事を任せられるほど成長した。俊哉もそれを好ましく思っている。
「総務部では連携が大切だ。勿論1人で仕事をする場面も多いが、チームワークを必要とする大きな仕事もある。だからそんな時ほど冷静になれ」
神崎は納得していない様子だ。俊哉はそれも見越して話をしている。
「いいか、神崎。ゲイとカミングアウトしたのはそう言ったトラブルもあると言う前提でしないといけなかった。しかし神崎はその覚悟でカミングアウトしたわけだ」
俊哉も直面した問題だ。
「だから堂々としていろ。仕事に集中しろ。差別に負けるな。跳ね返してしまえ。そして仕事を確実に成功させろ」
これは神崎に言っただけではない。俊哉自身にも言い聞かせるための言葉である。今まで顕在化されてきていなかった事だがあちらこちらで部員同士の小さな摩擦が起きている事が俊哉にとっても気になっていた。男と女、それぞれ人間だがまるで違う事を俊哉は痛感している。それですら難しいのにトランスジェンダー、ゲイ、レズビアンとなるとさらに複雑になっていく。俊哉も何か手を打たないといけないな、と感じている。
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