第202話レインボーパレードその3

「浩一郎さん、こっち、こっち」


浩一郎、紫苑、望月はパレード前方勢と合流した。皆ビール片手に楽しんでいるようだ。


「高坂さん、パレードどうでした?」


「ああ、なんか勢いが有るな」


神崎にそう聞かれて答えた。神崎はゲイである。


「ここのフードコート、良いですよ。どれも美味しい」


パレードの前方に居た人々はフードコートをゆっくりと巡る事ができたが、後方の人々は混雑に巻き込まれるのは仕方が無い。


「高坂主任。そうしたらこの3人でちょっとお店を回って来ます」


「あのお店のチョリソー、美味しいよ」


「そうか、行ってみよう」


「紫苑も居るし、私も行きます」


俊哉が言った。俊哉は何かこの3人に感じるところがあった。ちなみに浩一郎と望月が手を繋いでいた場面を紫苑は見ていない。


「こういうイベントで食べると美味しいな」


浩一郎はフランクフルトにビールを飲みながら楽しんでいる。望月と紫苑はチョリソー、俊哉はビールを買った。


「やっぱり先頭は良かったよ。やる気のある人が出て来てさ、テレビのカメラマンも撮ってたよ」


「じゃあお母さんも映ってるの」


紫苑が言うと


「そこはバッチリ大丈夫。サングラスしてたから」


俊哉はジャケットからサングラスを取り出した。紫苑は心配性だから、きっとパレードに参加するのも良く思っていないと考えたからだ。俊哉は紫苑を見ている。


「何、お母さん」


「いや、何も無いよ」


「あ、そうだ。お父さん、お母さん、言っておかなきゃいけない事がある」


「なんだ紫苑」


「私、中学行かないから」


なんだって!浩一郎、俊哉はもちろん、涼子達、神崎、望月も驚いた。


「紫苑ちゃん、中学生くらい楽しみなよ」


「もっと囲碁の勉強の時間が欲しいんだ」


俊哉は浩一郎を見た。浩一郎は落ち着いていて、驚きすらしない。まるで知っていたかのようだ。


「紫苑は大切な話は凄く考えてから言うからそんな事だと思ってたよ」


「紫苑ちゃん、中学校生活も楽しいよ」


紫苑は来年、中学校へ入学する予定だった。加奈子も心配している。


「そんなに囲碁のプロは大変なの?」


「1日10時間でも足りないくらい」


紫苑は小学6年生でプロ入り編入試験を合格した。リーグ戦も並み居る先輩達を蹴散らして善戦している。


「噂には聞いていたけどそんなに大変なのね」


涼子は言った。


「お父さんが止めてももう決めたんだろ」


うん、と紫苑は言ってチョリソーにかぶりつき、美味しいと言った。紫苑は思慮深い子だ。さんざん悩んだんだろう。浩一郎はそう察した。


「浩一郎さん、そこは止めないと」


俊哉が言った。俊哉の感覚は当然である。或る日我が子が学校へ行かないと言ったら多くの親達は反対するだろう。


「母さん、囲碁のプロって言うものは甘い世界じゃないんだ。囲碁で飯を食うのは並大抵の努力じゃ駄目なんだ」


浩一郎は紫苑の努力を知っていた。部屋には今時の女の子の部屋ではなく、本棚は囲碁の本、床には棋譜きふが置かれていて、部屋の中央には碁盤が置かれている。紫苑は碁石ごいしを打つ時、パチリと高い音を立てる。それが深夜まで浩一郎は聞いているのだ。


「対局料が出たら生活費は払うから」


これがサプライズではなかったら何がサプライズだろうか。その場に居た人間はすべからく驚いた。そうしてレインボーパレードは終わったのだ。

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