第159話紫苑の誕生日プレゼント

浩一郎は足の爪を切っている。俊哉は昼食の準備をしている。川端さんはソファに座っている。ちなみに紫苑は川端さんが見えない。だから俊哉と浩一郎の謎の行動が不思議でならない。誰も居ないのにお菓子とお茶の準備を2人がするのだ。


「お父さん、何故お茶とお菓子の準備をして出してるの」


「紫苑、ここにはね、幽霊さんが居るんだよ」


浩一郎が紫苑の疑問に答えた。


「怖くなんて無いよ。ずっとこの家を見守ってくれる良い幽霊だよ」


「それなら私も見られるかな」


「いつかきっと見れるさ」


川端さんはシロと居る。そこに宅急便が来た。


「お、来たぞ」


浩一郎と俊哉が玄関に向かった。何やら大きな箱で荷物が届いた。


「紫苑、開けてみなさい」


浩一郎がそう言った。俊哉も


「紫苑ちゃん、早く開けよう」


俊哉もうながす。紫苑は何だろうと思った。開封してみると碁盤だった


「わあ、碁盤だ」


脚付きの碁盤である。紫苑はよいしょと持ち上げた。


「どうだ。本榧ほんかやだぞ」


榧とは碁盤に使われる木材で、碁盤としては最高級である。


「今日は紫苑の誕生日だからな」


素敵な誕生日プレゼントだ。もう1つの箱を開けた。碁笥ごけと碁石が入っていた。


「碁笥は桜の木、碁石は日向産の国産だ」


どれも最高級品だ。紫苑はとても嬉しかった。


「お父さん、お母さん、ありがとう」


「なに、プロ入りのお祝いもしていなかったからな」


「紫苑ちゃん、プロ入りおめでとう」


紫苑は碁石を碁笥に入れ、碁盤に石を打ってみた。パチリと良い音がする。


「お父さん、これ、かなり高かったんじゃない?」


「値段は関係無いさ。気持ちの問題だよ」


今までの紫苑は折り畳みの碁盤でプラスチックの碁石で勉強していた。


「お父さん、お母さん、ありがとう。大切に使うよ」


「うん、励みなさい」


紫苑は碁盤を自分の部屋まで運んだ。立派な碁盤である。実を言うと紫苑は対局料で買えなくはなかった。順調に勝ち星を重ねていたし、タイトル戦の予選も順調に勝ち進んでいた。とは言え、欲しくなかったと言えば嘘になる。


「お父さんもお母さんも相当無理したに違いない」


紫苑はそう思った。碁盤を目の前にして紫苑は勉強を始める事にした。


「お母さん、お昼まで勉強をするよ」


「うん、好きなだけしなさい」


紫苑は部屋に籠って勉強に没頭した。


「紫苑ちゃん、喜んでくれましたね」


「ああ、碁打ちの憧れの道具だからな」


部屋の外からそっと紫苑の様子を伺う。碁石の高らかな音が聞こえてくる。そっと俊哉と浩一郎は1階に降りた。川端さんが居る。


「喜んでもらえたみたいですね」


川端さんが言うと浩一郎は


「これも川端さんのおかげです」


このプレゼントを提案したのは川端さんだった。川端さんは


「紫苑ちゃんなら碁盤と碁石が最高のプレゼントでしょう」


あ、と俊哉と浩一郎はその助言に驚いた。うっかりしていたとも言ってもいい。


「そうだな、長く使えて愛着もできるだろうし」


「浩一郎さん、出費ですが奮発しましょう。紫苑ちゃんのために」


「ああ、そうだなそうしよう」


浩一郎はこっそり店に行って商品を確かめていた。


「こちら本榧でお得な商品となっています」


うむ、これにしようと思い切って買った。碁石と碁笥も手に取って確認してみる。素晴らしい出来だ。


「紫苑が喜んでくれたら何よりだよ」


俊哉と浩一郎、川端さんは3人で話し合った。


「紫苑、タイトル戦本戦、出られると良いな」


「チャンスが有るかもしれませんよ」


川端さんが微笑んでそう言った。紫苑が囲碁界で大暴れするのはもう少し先の話である。

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