第9話先輩の部屋
「お邪魔します」
俊哉は先輩の家を訪れている。駅が近くてオートロック、2LDK。もっと男臭い部屋かと思ったが予想は大きく外れた。部屋には最低限の物しかない。なんならテレビすらない。代わりに本棚があってぎっしりと本が並んでいる。
「何も無い部屋だがまあゆっくりしてくれ」
俊哉はソファに座った。これは雑誌で見つけたモダンファニチャーだ。
「良いソファを使っているんですね」
「まあ椅子はお金を掛けるよ」
「こんな良い物件、
コーヒーの良い香りがしてきた。
「ほら、車を譲ってくれた叔父さんの話をしただろ。その叔父さん、このマンションの家主なんだ。だから格安で借りれてる」
その叔父さんは先輩を可愛がっており、子供の居ない夫婦にとって子供のように可愛がってくれていると言う。
「テレビも置かないなんて、寂しくないですか」
「音楽が有るさ。本も。何ならラジオも有る。テレビは要らないさ」
どうやら先輩はテレビのくだらないバラエティー番組なんかが嫌いだと言う。俊哉はこの静かな空間は不思議と満たされている事に気が付いた。お香を焚いている。
「どうしても男の1人暮らしってやつは緊張感が無くなるんだ」
防大生活で整理整頓が身体に染みついているのも有るな、と先輩が言った。
「先輩、本棚見ても良いですか」
良いよ、と先輩が言ってくれたので本棚に近づく。難しそうな本が沢山並んでいる。
「田宮は読書は嫌いか」
「嫌いじゃないですが先輩みたいに難しい本は読みません」
難しいねぇ、と言いながらコーヒーを持って来てくれた繊細なデザインのコーヒーマグ。対して先輩はごついアメリカンなマグカップ。
「このマグカップもお洒落ですね」
「来客用だよ」
「先輩にお願いがあるのですが」
「何だ?」
「先輩の部屋を探検したいんですが」
なんだどんなお願いかと思ったらそんな事かと先輩は笑った。
「良いよ。まあコーヒー飲んでからにしたらどうだ」
俊哉はワクワクしている。先輩の部屋を探検できるのだ。これほど嬉しい事はない。
「じゃあコーヒータイムが終わったら案内してください」
「お安い御用だ」
コーヒーをゆっくり飲み終えると俊哉はゆっくりと立ち上がった。今日はパンツスタイルだ。薄手のカットソーとカーディガンを着ている。先輩はスウエットにデニムパンツだ。俊哉は本棚とCDラックを見回った後、隣の部屋に移動した。どうやら趣味の部屋らしい。壁に革ジャンやジャケットが飾られている。
「あの皮のジャンパーは?」
「あれはA2といって第二次大戦の時のアメリカの空軍のジャケットだよ」
「お値段はいくらするんですか」
「20万くらいだな。レプリカだからヴィンテージならもっと高い」
俊哉は驚いた。先輩のこだわりは独特のものがある。デニムパンツも飾ってある。
「このデニムは?」
「ヴィンテージのリーバイスだ」
「お値段は?」
「左から60万、90万、120万」
俊哉は度肝を抜かれた。ヴィンテージマニアを知らない訳ではない。しかしこう身近にそういう人が居るとは思わなかった。
「先輩は道楽者ですか」
「上には上がいるさ。俺なんてまだまだひよっこさ」
よし、晩御飯の準備するから自由にしてくれ、と先輩はキッチンへ行ってしまった。俊哉もリビングに戻って先輩の手料理を楽しみに待つことにした。
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