第59話浩一郎は動じない

「俊哉は神崎の告白に動揺していると」


「いえ、そんな事無いんです」


俊哉は慌てて否定した。日曜日の午後、浩一郎宅。


「まあびっくりはしたな。みんなの前で告白は」


浩一郎はキッチンで食器を洗っている俊哉も手伝っている。


「俺は俊哉しか見ていないぞ」


「そんな恥ずかしい事言わないでください」


俊哉は耳を真っ赤にして言った。


「まあ三洋商事は退屈しない会社だな」


「そうですね」


次から次とトラブルが起きそう。神崎の件もそうだ。


「なあ、俊哉。昔、敵討かたきうちで1番多かったのは何だと思う?」


「まあ普通に考えて、親のかたきとかじゃないですか」


「1番多かったのは男色敵討ちさ」


それだけ思い入れも多かったんだろうなあ、と浩一郎さんは呑気に言った。俊哉はこころよくない。食器を拭き終えた俊哉が口をとがらせて


「浩一郎さんなんて知らない」


ふくれた。浩一郎さんはへりくだる。


「なに、ちょっとした話題だよ」


浩一郎は釈明した。2人ソファに並んでコーヒーを飲んでいる。


「浩一郎さん、私を愛していますか」


「もちろんだ。俊哉にぞっこんだよ」


ふーんとコーヒーを飲んで


「まだまだ私への愛が足りないように思えます」


「そうか」


サッと隣の俊哉を抱え込んだ。浩一郎にとって難しい事では無い。


「じゃあ、こうすれば良いかな」


浩一郎が俊哉にキスをした。


「浩一郎さんはズルいです」


「俺は手段を選ばない男だ」


キスに舌を絡める。俊哉の体から力が抜ける。


「浩一郎さん、キスが上手ですね。どこで覚えたんですか」


「さあ、覚えていないね」


俊哉の心拍数が上がる。もう抵抗も出来ない。


「良い事思いついた」


浩一郎さんが飴を取り出して口に入れた。俊哉には意味が良くわからない。浩一郎さんはまたキスしてきて、口移しで飴を俊哉に渡した。何故かすごく気持ち良い。


「んん」


浩一郎さんの舌と共に飴が俊哉の口内で怪しい動きをする。2人で1つの飴を舐めているのだ。


「浩一郎さん、すごく気持ち良いです」


「そうだろ?」


俊哉の飴が口移しで浩一郎さんの口に入る。そこでお互いの舌が飴を介して複雑に絡み合う。そうしてしばらくするとまた俊哉の口に飴が戻ってきてまた2人で飴を舐める。飴が無くなる頃、俊哉はぐったりする。


「ベッドへ行こうか」


「はい」


4月の陽気が2人を包み込む。浩一郎さんは俊哉があっと思うくらい服を脱がせるのが上手い。俊哉が下着のみになった。


「下着姿も可愛いよ」


「浩一郎さん」


俊哉は恥ずかしいので浩一郎さんを強く抱きしめる。下着を脱がされてもう後は浩一郎さんの愛撫あいぶで俊哉は快楽の海に溺れるのだった。


「俊哉。俺の気持ちがわかるだろう?」


「はい、わかります」


明るい内から淫らな事をしたので恥ずかしさからぴったりと体を合わせて離さない。

分厚い胸板に俊哉は顔を埋める。


「本当に惚れていない人間に俺はこんな事をしない」


「はい」


浩一郎さんはゆっくりと話し始めた。


「もし俊哉が罪を犯し、世界中を敵に回しても俺は俊哉の味方だ。この気持ち、俊哉にわかるか」


「はい、わかります」


「俺は言葉で飾りたくない」


「はい」


俊哉は頷く。


「言葉はいつも嘘をはらんでいるからな」


浩一郎さんは俊哉を強く抱きしめて


「だから俺だけを信じろ」


はい、と答えて俊哉は涙を流した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る