第168話松井萌音
「小柄だね、松井君は」
浩一郎は松井を見て俊哉に言った。
「可愛らしい顔とスーツ姿のギャップが良いですね」
俊哉はそう答えて松井を見た。神崎の言葉にメモを取っている。定型業務の事を教えてもらっているのだろう。
「松井君はいったいどういう気持ちでスーツを着ているんだろうか」
浩一郎の素直な疑問である。
「ヒアリングで聞きましょう」
午後は俊哉と浩一郎のヒアリングがある。それまでは神崎の教育が続く。
「じゃあ松井君、ヒアリングを始めようか」
会議室に俊哉、浩一郎、松井の3人が揃った。松井は緊張しているようだ。
「松井さん、緊張しなくてもいいから気楽にしてね」
浩一郎がコーヒーを持って来た。
「砂糖もミルクも好きなように入れてくれ」
「ありがとうございます」
松井は礼を言った。
「いくつか質問があるんだけど」
俊哉はそう言うと松井は身構えたようだ。
「松井さんはXジェンダーだと聞くけど、今は何故スーツを着ているの」
「私の気分によります」
「と言う事はスカートを履く事も有るのね」
「はい、そうです」
浩一郎が質問をした。
「と言う事は男性、女性の性自認を行ったり来たりするのかい」
「はい、そうなります」
「それじゃあロッカールームはどうしようか。着替えたい時も有るだろう」
「お気遣いは心配ありません」
「もし良かったら私達のロッカールームを使っても良いのよ」
「本当に良いのですか」
「勿論いいよ。ただトランスジェンダーやヘテロセクシャルが居るけど」
「私から質問させていただいてよろしいでしょうか」
「ええ、どうぞ」
「三洋商事は性的マイノリティに理解があって、高坂主任は初のトランスジェンダーの管理職だとお伺いしました」
「松井さん、三洋商事は性的嗜好で人間を判断しない会社よ。だからこんな私でも入社できた」
松井は真剣に聞いている。
「トランスジェンダーは5人居るわ。私の同期は4人。皆頑張っているわ。今日は松井さんの事について個人的な事を聞きたいの。それは私達が貴方を理解するための大切な事なの」
松井は語り始めた。
「私が好意を持つのは男性も女性も両方なんです。でも体は女性です。私は悩みました。だからXジェンダーと言う選択をしました」
「それはバイセクシャルとは違うのかな」
浩一郎が言った。
「私はバイセクシャルではありません。性自認をどちらか片方に決めるのが嫌なんです」
「なるほど、そう言う事か。じゃあ、主任、ロッカールームを使わせたらどうだ」
「松井さんが良いなら使用しても良いですよ。ロッカーは何かと便利だしね」
「お気遣いありがとうございます」
「三洋商事は
「ところで高坂主任。高坂係長補佐と同姓ですが結婚されているのですか」
「うん、まあね」
「素敵です」
「松井さんの結婚式には是非招待してね」
この頃には松井とも打ち解けてきた。今は目の前の仕事で覚える事が多いと言う。
「総務部は覚える事が多く有るから仕方が無いね。でも慣れたらできるようになるよ。松井さんの教育係の神崎なんて大変だったんだから」
浩一郎は笑った。
「神崎は大変だったな」
それから俊哉と浩一郎は松井の具体的な事をヒアリングした。将来は自分の語学力を生かした仕事をしたいと言う。
「うん、その件に関しては検討しよう。松井君の出番はすぐに出来そうだが」
「本当ですか」
「松井さんの頑張り次第ね」
後は雑談になった。その時、松井はある提案をした。
「あの、本当に自分勝手なお願いになると思うんですが、高坂主任とプライベートでお話をしたいんですが」
「ええ、良いですよ。じゃあ私の家に来ればいい」
ねえ、浩一郎さん、と俊哉は浩一郎に聞いた。
「ああ、もちろん大歓迎さ。泊まって行っても良いよ」
松井の顔色が明るくなった。松井にとって良いヒアリングになった。
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