第3話先輩とお茶会
俊哉は待ち合わせ場所に30分前には到着していた。後は先輩を待つのみだ。今日は春らしくサテンのスプリングコートを羽織っている。俊哉はスマホをずっと見ている。
「お姉さん、待ち合わせ?良かったらお茶しない?」
若い男が声を掛けて来た。
「いえ、結構です」
「げっ声低い。男かよ、気持ち悪い」
男は嫌悪感を露わにした。
しかしこの男に災難が訪れる。若い男は頭を掴まれぐるりとひねられた。目の前には
巨漢が居る。
「俺の連れに何か有るのか」
震えあがった若い男を掴んでいた手を離すと飛んで逃げて行った。
「すまんな、田宮。早めに待ち合わせに間に合うようにしたんだが」
「いえ、先輩、私が早めに来すぎたんです」
「まあいいか、どっかのカフェに入ろうぜ」
2人は歩き始めた。俊哉は高坂を見上げる。改めて大きな男だ。
「ここにしよう」
人通りの多い道から少し離れた所にカフェがあったお洒落なカフェだ。2人は奥の席を選んだ。
「何でも頼んで良いぞ。今日は俺のおごりだ」
そう言われても俊哉は困ってしまう。先輩の迷惑にはなりたくない。
「私も払います」
「良いんだ、おごらせろ。先輩の好意だ」
先輩はコーヒー、俊哉は紅茶とパンケーキを注文した。
「ところで田宮が会社に来てどれくらいになる?」
「だいたい1年くらいです」
「そうか、もう1年か。早いなあ」
俊哉の教育係が高坂先輩だった。仕事の教え方が上手く、俊哉は物覚えが良いので
あっという間に定型業務を覚えてしまった。
「大体の仕事は覚えたな。後は応用だ」
最初は先輩の隣の席だったが教育が終わると席は離されてしまった。俊哉は寂しかったが仕方が無かった。その事を告げると先輩は笑って言った。
「いつまでも隣に居ると頼り癖が付いてしまうからな、これは俺の判断だ」
俊哉はてっきり主任の指示かと思っていた。先輩からの提案だったのに驚いた。
「仕事の出来る人間は離すべきなんだよ」
先輩はコーヒーを飲んだ。
「ジェンダー4人衆の仕事の出来っぷりは評判だぞ。会長の目もなまくらじゃなかったな」
俊哉は最終面接で会長と会っている。俊哉は思い出した。
「君は体が男で心は女だと言うのだね」
面接で開口したのは会長だった。はい、と俊哉は答えた。
「君は筆記試験で満点だったよ。驚く事に他の3人も君と同じ成績なんだ」
会長は機嫌が良かったのを記憶している。
「会長は切れ者だからな。田宮の能力を買ったんだ」
「私が仕事ができるのは先輩のおかげです」
これは本音である。先輩は照れくさいのか頭を掻いた。
「いやな、最初は田宮をどう扱えば良いのか迷ったんだ。俺も教育係は何度もしてきたから慣れてはいるつもりなんだがな」
先輩はトランスジェンダーの私に困惑したのかもしれない。
「でも田宮が出来っ子だったから心配もしなくなったけどな」
「出来っ子って何ですか?」
「ああ、自衛隊では出来る奴を出来っ子って言うんだ」
「先輩は自衛隊に居たんですか」
「ああ、防大に入って幹部になったが直ぐに辞めてしまったよ」
俊哉は身を乗り出して話を聞いている。
「先輩、その話もっとしてください」
「良いけどつまらない話だぞ」
残りのコーヒーを飲み干しておかわりを注文して先輩が話し始めた。
「防大、防衛大学校は普通の大学じゃないんだ」
先輩は話を始めた。
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