第148話3人の毎日

紫苑は託児所で過ごし、夕方になると定時を迎えた俊哉と浩一郎の3人で帰る。帰りの車内は明るく、会話が途切れる事は無い。俊哉も浩一郎も仕事であった話を紫苑にする。紫苑も碁盤に向かう毎日を楽しく話をする。囲碁の話だけではつまらなくなるとなるかもしれないが会話の内容は沢山あった。紫苑は浩一郎からノートパソコンを借りてAIと囲碁を打っている。


「紫苑もそろそろ小学生だな」


浩一郎がそう言うと紫苑は楽しそうに言った。


「友達沢山できるかな」


「大丈夫、できるさ」


俊哉はまた眠り込んでいる。


「お母さん、疲れているのかな」


「ああ、お母さんも忙しいからな。家に着くまでそっとしてあげなさい」


3人は家に帰ると手分けして夕食の準備をする。紫苑もお風呂を入れたりとするべき家事は多い。


「いただきます」


今日は鮭のホイル焼きとネギと豆腐の味噌汁、菜の花のおひたしと納豆、卵。質素な食事である。食べ終えて食器の後片付けは紫苑の仕事である。キッチンは高いので紫苑は台を使ってキッチンに立つ。


「そろそろ紫苑の小学校の準備をしないといけないな」


「そうですね、もうすぐ春です」


キッチンでは紫苑が洗い物をしている。


「紫苑、上手く小学校でやっていけるかな」


「大丈夫さ。大人びたところはあるけど子供だよ」


「院生にもなって忙しいですよね」


「家に帰ったらずっとネットで碁を打っているからな」


洗い物を終えて紫苑がリビングに来た。親子のごく普通の光景。自然と話題は紫苑の話になる。


「院生ではどうなんだ」


「初段に昇段したよ」


院生ではリーグ戦で4段でプロになれる。紫苑はまだ6歳である。年上に囲まれて大丈夫?と俊哉が心配すると


「うん全然大丈夫。ライバルだけど友達みたいなものだから」


川端さんが現れた。


「みなさん、お帰りなさい」


「川端さん、こんばんは」


紫苑と川端さんは仲が良い。よく紫苑の部屋で2人きりで話し込んでいる事も多い。紫苑は俊哉と浩一郎には言えない悩みや相談を川端さんに聞いてもらっている。最初はおっかなびっくりの紫苑だったが今では川端さんは紫苑にとって大切な存在である。


「紫苑ちゃんの入学式も近いですね」


川端さんは言った。もうランドセルも買ってある。紫苑の好みなのか、落ち着いた茶色のランドセルだ。


「入学式は仕事も休まないといけないな」


浩一郎は入学式が終わり次第、会社に向かうつもりだ。


「いよいよ来週だな、入学式」


期待と不安は紫苑だけが抱えているのではない。俊哉も浩一郎も、川端さんも同じだ。


入学式当日。俊哉と浩一郎、紫苑は式に臨んだ。無事に式は終わって、クラスの案内をされた。紫苑は1年2組だ。1年は2組しかない。


「少子化もここまで深刻だとはな」


浩一郎は俊哉に言った。


「私の時は1クラス30人、6クラスありましたよ」


無人で使われない教室もあると言う。


「紫苑の未来が心配だよ」


教科書を受け取り、上履きと体育館シューズ、体操服を購入した。プールの授業で使う水着は6月になってからだそうだ。


「紫苑、上手く同級生とやっていけるかしら」


俊哉はまだ心配している。浩一郎は大丈夫さ、と言って


「紫苑には目標がある。プロ棋士としての目標がある。だから大丈夫さ」


桜は葉桜になっていた。春はもうやって来た。



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