第8話LGBTQ
今日は俊哉に加奈子、彩、涼子の4人が揃ってお茶をしている。5月の日曜日の午後、爽やかな風の中、カフェのテラスに居る。
「あたし達ってさあ、もう性器も無いしまあ理解されてる所はあるじゃない。でもレズとかゲイは
涼子がそう言った。涼子は秘書課の秘書である。この4人の中で1番の美女である。取引先の人間とも上手くやっていると言う。コミュニケーションお化けだ。
「三洋商事も流石に同性愛者は敬遠するかな」
加奈子がそう言うと彩は
「それはわからないわよ。会長の目に留まったらレズやゲイでも採用されるんじゃない」
「たぶん隠して入社するんじゃない」
俊哉はそう答えた。実際、自分が同性愛者なのを隠して入社する人間も多いだろう。ただそれだけで入社のチャンスを逃すには惜しい。
「今度のレインボーパレード、参加する?」
涼子は活動に積極的だ。レインボーパレードとはLGBTQの人々がデモをする日だ。ほとんどお祭り騒ぎだ。
「ゴールデンウィーク最終日だっけ。私は難しいなあ」
俊哉は難色を見せた。それは先輩と会う約束をしているからだ。
「俊哉って最近付き合い悪いわよね」
「ごめん、悪いと思ってる」
「さては男が出来たな」
涼子の観察眼は鋭い。
「うん、気になる人が居るんだ」
俊哉はこの3人には嘘をつかない。それは暗黙の了解みたいなものでもあるし、4人の結束でもある。自分達はマイノリティである。4人でがっちりとスクラムを組んで社会に立ち向かわないといけないとみんな思っている。俊哉達4人は恵まれている。何故なら大企業で正社員として働けているから。トランスジェンダーの人々の多くはニューハーフバーや非正規の仕事をしている。三洋商事に入社できた4人は奇跡だと言っても言い過ぎではない。
「同じ総務部の人」
「うん」
「名前は?」
「高坂さん」
なにっと涼子は言った。
「高坂さんってあの大きな人だよね」
秘書課は全ての部署を把握しておかなければ円滑な業務をおこなえない。
「で、どこまで行ったのよ」
「休日にドライブするくらいだよ」
「これは我々3人で応援するしかないわよね」
加奈子は宣言した。
「以降、我々3人は俊哉を支援する」
4人だけの議会は議決した。
「よし、このまま作戦会議のため、居酒屋へ移動する」
4人はカフェを出て居酒屋へ向かった。事にこれまで俊哉の恋愛に3人が執着するのはトランスジェンダーゆえに普通の恋愛ができないからだ。性同一性障害者の多くは性の違和感に悩まされ、たとえ性転換手術を受けたとしても異性からは恋愛対象にならない事が多い。やっとみつけたパートナーは特殊な性癖の持ち主だったりする。だから俊哉の恋愛は3人にとって我が事のように思えるのだった。
「話は理解した。なかなかの難敵だな」
「うん、仕事はできる人なんだけど、どこか影が有って、よくわからないところが有るの」
「防大ってめちゃくちゃ厳しいんでしょ。そんな厳しいところから生き抜いて来たんだから何かしら思うところは有るはずよ。気にしなくて良いと思う」
そうだね、と俊哉は答えた。でも俊哉の目に浮かぶのは時折悲し気な目で遠くを見ている先輩の姿だった。
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