第2話 実家に戻りました。

 ~お知らせ~

 すでに、ラキモンは俺のアイテムBOXの中に保管されています。

 すでに、ラキモンは俺のアイテムBOXの中に保管されています。


 さて、俺は有頂天で笹塚ダンジョンの皆に別れを告げ、色々と買い物を済ませた後、家路に着く。

 リーダーが柄にもなく涙ぐんでいたのが印象深い。

 見送ってくれた、他のモブバイトフレンズもありがとう。

 そして、申し訳ない!

 ラキモンが消えた今、笹塚ダンジョンから客足が遠のくのは自明の理。

 そして、俺ほど接客に長けたバイトがいないとなれば……。

 頑張れ! リーダー曽根崎!


 そんなこんなで、家に戻った俺は、早速、父親にメッセージを送ってみた。


 俺『あのさー実家のダンジョンって、俺が貰ってもいい?』

 父『爺に』

 俺『り』


 ス、スマートすぎる……。

 我が父ながら、なんという無関心。尊敬に値する。

 心置きなくマーケットと戦ってくれ。

(ちなみに前回も言ったが、俺の父は為替トレーダーである)


 次に、爺ちゃんにもメッセージを送る。


 俺『爺ちゃん久しぶり。元気? 実家のダンジョンさー、あれ継ぎたいんだけど?』

 爺『帰ってくるんか?』

 俺『都合悪い?』

 爺『あれ(俺の母)には黙っとけよ? 今、女と同棲中や』

 俺『まじで?』

 爺『黙っとるなら、部屋は空けとくぞ?』

 俺『り、帰ります!』


 おいおい、今年70は過ぎてたよね……?


 俺の爺ちゃんは田舎で農家のまとめ役をしている。

 農家と企業を直接結ぶアプリを開発して、ご近所の農家連中と荒稼ぎをしているらしい。当然、ダンジョンなどやる必要もないわけだ。

 金、女、稲。

 すべてを手にしたわけか……。


 その日の夜、俺は荷造りを済ませて、夜行バスに乗った。

 ――さらば東京。

 目が覚めれば、四国、我が故郷ふるさと、うどん県だ!



 プシューッというバスの扉が開く音で目が覚めた。

 外に出て背伸びをする。

「ん……ふぅ~」

 空気は……変わらないな。うん。


「ジョーン! おーい!」

 声の方を見ると懐かしい顔が。

「爺ちゃん、久しぶり! 元気だった?」

 昔見た時と殆ど変わらない。

 長い白髪を後ろで一つに束ねて、まるでサーファーのように引き締まった身体をしている。

「いやぁ、大きくなったのぉ? 20年ぶりか?」

「いやいや、そんなには経ってないよ」

「ははは、まあまあ、それより飯は食うたんか?」

「まだだけど」

「よし、旨いもん食わしてやる、さあ乗れ」

「ありが……」

 荷物を載せようとして、俺は目を疑った。

 爺ちゃんが乗れと言う車、おいおいBMかよ。

「ちょ、これ……」

「ん? これか? ええやろ? 女子ウケ抜群や」

「そ、そうなんだ……」

「ま、必要経費っつうやっちゃ。女遊びにも金がかかるんじゃ、ひゃっひゃっひゃ」

 この現役感、凄すぎる。

 ともかく、長閑な田舎道をBMは颯爽と走り出した。


 二人を乗せたBMは、山の中腹にあるうどん屋に着いた。

 やはり香川といえば、讃岐うどんである。

 舗装もされていない空き地に、無造作に置かれたBMが輝く。

「やっぱ、うどん喰わなきゃ始まんないよね」

 店内に入り、うどんを啜りながら、久しぶりに味わうコシの強い麺に舌鼓を打つ。

「お前、なんでまたダンジョンなんてやるんや? ワシの仕事手伝えば?」

 一瞬、心を揺さぶられた。不意打ちか!?

 『儲かるぞ……もうかるぞ……モウカルゾ……』

 クッ、なんというパワーワードだ!! 臓腑ごと持ってかれる!

 いかん、耳を塞げ! 遮断しろ! ウリィィィィィ!!!

 ――空即是色、色即是空。

 ダンジョンダンジョンダンジョジョン……。


 秒数にして2秒程の戦いに打ち勝った俺は

「うーん。まあ、ちょっとやってみたくてさ」と答える。

「変わった奴や。まあ、ワシの親父と似たんかもな」

「ひい爺ちゃん?」

「ああ、そもそも親父がダンジョンをやっとったんじゃ」

 爺ちゃんはうどんを食い終わると

「一時はだいぶ人も来よったけどなー、ほれ、ダンクロあるやろ? あれが幅を利かせ始めてからは減る一方でなぁ、親父も最後の方は諦めて、入口を塞いでしもうたのよ」と言う。

「へー、そうなんだ」

 そうか、丁度ダンクロが全国展開を始めた時期なのか。

「まあそんなやから、お前の好きにしたらええ」

「うん。ありがとう」

 よし、これでダンジョンは俺のものだ!

 俺は残ったうどんを一気に啜った。



 実家に着いて、荷物を降ろす。

「この部屋使え。夜はその辺のもん適当に喰うたらええ」

「うん、わかった」

「ワシ、これとちょっと出かけるから」

 と、ニヤける爺ちゃんの隣に、40代ぐらいの女性が立っている。

「初めまして、陽子といいます」

 物腰の柔らかな大人の女性。若い時はさぞモテたんだろうなと思う。それに何より目のやり場に困るほど、立派なモノをお持ちで……。

「あ、どうも。ジョーンです」

 それ以上、会話が続くわけもなく、爺ちゃんに目で助けを求めた。

「じゃあ、ダンジョンは裏の奥にあるからな。まあ、好きにしてろ。何か困ったら連絡入れてくれ」

「うん、そうする」

 俺は軽く頭を下げ、手を繋いでBMへ向かう二人を見送った。


「よし」

 そう呟いて、俺は荷物の中から、買っておいた瘴気香や、精製水、歯ブラシなんかを取り出してバッグに入れる。幸い、農家なので、農作業の道具には事欠かない。

 まずは、ダンジョンの様子を見に行くことにした。


「この辺かな……」


 家の裏手に回り、広めの獣道沿いに進むとそれはあった。

 茂みに隠れるように、ひっそりと佇む様に。

 はやる気持ちをおさえ、木枝を押しのけると、ダンジョンはその姿を現す。

「これだ、間違いない」

 しかし、入口は木板で塞がれていて、その全容はまだ見えない。

 とりあえず、目の前の板を触ってみる。

 木板は既にボロボロで、手で引っ張ると簡単に外れた。

「よぉしっ!」

 俺は片っ端から板を外していく。

 全部外し終えた頃には、うっすらとTシャツに汗が滲んでいた。

 

「おお……」

 

 思わず感嘆の声が漏れる。

 ぽっかりとその口を開けたダンジョン。

 氷柱つららのような草が良い味を出してる。

 うん、いいねぇ。このシチュエーション。

 ダンジョンはこうでなくちゃ。

 最近のダンジョンはファンタジー感に欠けると、俺は常々思っていたのだ。

 これはまさにダンジョン。

 くぅー。


 俺は100均で買った懐中電灯を点けて中へ入った。

 入り口の隅に、旧式のモニタリングデバイスが転がっている。

「これは相当年季が入ってんな」

 すでにアンティークの域に達したデバイスは使えそうにない。

 うーん、これは交換だな。

 元の場所へ置いて、さらに奥へと進む。


 寂れたとは言え、流石はダンジョン。ひんやりとして、広さもまあまあだ。

 入口の光はもう見えなくなって、二度と帰れないかと思わせるこの雰囲気。


『へへ、ちょいと越後屋の旦那ぁ、こりゃあ、まるでシュワルツシルト半径に踏み入ったようじゃありやせんか』


『なに? そいつは聞き捨てならねぇな。だとすりゃあ、コアは特異点だってぇお前さん、そう言いてぇのか?』


 などと脳内で小芝居を考えながら進む。

 うーむ。一向に何も見当たらない。

「コアが死んでなきゃいいんだけど」

 因みにコアが死ぬことはない。その活動を休止するだけだ。

 しかし、一旦休止したコアを再稼働させるには、それなりの手順が必要なのだ。

 ふっ、安心して欲しい。

 伊達に大手ダンジョンでバイトをしていたわけじゃない。

 過去、何度も新規ダンジョンOPENに駆り出された俺は、業者のやり方を盗み見したり、勝手にマニュアルを読んだりして、コア活性化の方法を会得済みだ。


「あった!」


 最深部に、こじんまりとした部屋を見つける。

 大抵、ダンジョンコアという物はそのまま置かれているわけじゃない。

 こんな感じの小部屋に隠されているのだ。


 俺は荷物から瘴気香を取り出して火を点けた。

 生臭い煙が漂う。

「うぇっ」

 煙は次第に小部屋に充満していく。

 俺は根気強く待った。

 数時間経ち、臭いにも慣れた頃、右の壁にぽつんと光が灯る。


「キターーーー!」


 急いで光の場所を掘る。

 一メートル程掘り進むと、土の中から朧げに光る玉を見つけた。

 土を払い、まじまじと眺める。

 ――コアだ。

 早速、精製水でコアを洗い綺麗に汚れを流す。

 この時、使い古しの歯ブラシが役立つので覚えておいて損はない。

 小部屋の中央に折り畳み式の椅子を広げ、タオルを敷いた上にコアを置く。

 そして、新しい瘴気香に火を点けて、椅子の下に入れる。注意点は、瘴気香がコアの真下に来るようにしなくてはいけない。燻製をイメージしてもらうと、わかりやすいと思う。

「よし」

 これで準備は整った。

 後は、瘴気香を絶やさず、三日間燻し続けた後に一日寝かす。

 瘴気香は一本で一日ぐらい持つから、明日の朝にまた交換すればいいだろう。


 俺は来た道を戻り、入口にあったデバイスを回収して家に戻った。


 さてと、協会に連絡して新しいモニタリングデバイスを頼まないと……。

 今はネットで注文ができるのだ。素晴らしい。

 土まみれの鼻の穴をティッシュで掃除しながら、ダンジョン協会のサイトへアクセスして、デバイスの申請を行う事にする。大丈夫、向こうからは見えない。


「管理番号か」

 デバイスの裏に書いてある20桁の数字を入力する。

 画面にデータが表示された。

――――――――――――――――

 ダンジョン名:さぬきダンジョン

 管理/所有者:壇助六

 貸与デバイス形式:200A型

――――――――――――――――

「ふ、古っ!」

 そりゃそうか。しかし200Aって……。

 笹塚ダンジョンで使っていたデバイスは800Cだ。

 一体、何年前のデバイスなんだろう?


 まあ、それはいいとして、名義も変えないとな。

 ついでだからダンジョン名も、もっとカッコよくしたいところだが……。

 俺は台所の冷蔵庫から麦茶を取って来て、飲みながら考えた。

 画面を見つめる事、数時間。

 ようやく入力を済ませると『変更を受け付けました』と画面に表示される。


 それがこれだ。

――――――――――――――――

 ダンジョン名:D&M

 管理/所有者:壇ジョーン

 貸与デバイス形式:申請中

――――――――――――――――

 D&Mはンジョンは俺にかせろという意味だ。

 色々と思う所はあると思うが、これは俺のダンジョン。

 出会いは求めても、異論は受け付けない。


 見てろよダンクロ!

 ここからは俺のターンだ!!

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