オブザデッドの孤島編 ~またも名刺を拾ったら~

第181話 またも名刺……⁉

「……なんだこれ?」


俺はダンジョンの前に落ちていた名刺を拾った。

名刺にはメッセージアプリのIDと……、

「༼ꉺ✺ꉺ༽」 「༼❁ɷ❁༽」 「༼இɷஇ༽」

という謎の絵が書かれていた。


誰かお客さんが落としていったのかな……?

破り捨てようとして、手を止めた。

もしかしたらお客さんが困ってるかも知れないな……一応預かっとくか。

俺は岩カウンターに名刺を置いて、そのまま開店準備に入った。


「そろそろダンジョンも拡張して良い頃だと思うんだけどなぁ……」


客足も上々、売り上げも高水準をキープ出来ている。

だが……。


「はあ……」


タブレット端末に表示されたマップを見てため息をつく。

十六階層が出来てから随分経つが、一向にダンジョンが拡張する気配がないのだ。


どうやればダンジョンが活性化するのだろう?

コアはすでにダンジョンに定着しているしなぁ……。


地道に営業を続けながら待つしかないんだろうけど、このままじゃジリ貧になってしまう。

新しい変化がなければ、お客さんは満足してくれないだろうし……。


――と、その時スマホが鳴った。


「誰だろ……」


見ると紅小谷からメッセージが届いていた。


――――――――――――――――――――――

ジョンジョンへ


元気にやってんの?

あんたのことだから、どうせ頭打ちだーうわーとか言ってんでしょうけど、そんなこと言ってる場合じゃないのよ!

このたわけーーーーーっ!


これはまだオフレコなんだけど、業界関係者に通達があったの。

とある海外ダンジョンオーナーが、日本のダンジョンオーナーを集めて秘密のゲームをやるらしいのよ。


参加資格のあるダンジョンには、モンスの絵が描かれてる名刺が配られたらしいから、ちゃんと確認しなさいよね。

間違っても捨てちゃだめだから。


もし名刺があったら、連絡してよね。


――――――――――――――――――――――


俺は岩カウンターに置いた名刺を手に取った。


「あっぶねー……捨てるとこだった」


うーん、こんなぺらぺらの名刺がそんな凄いものなのか……。

ていうか、海外の人がウチまでわざわざ名刺を置きに来たのだろうか?

ゲート乗り越えたんなら不法侵入だぞ……。

まあ、前日に置いてった可能性もあるけど、とりあえず紅小谷に連絡してみるかな。


スマホで紅小谷にメッセージを送る。


「名刺、ありましたよ、っと……送信」


さて、今日も頑張らないとな!

デバイスをOPENにしようと手を伸ばしたところで、スマホに着信があった。


「おぉ、久しぶりー」

『久しぶりじゃないわよ! このたわけーーーーーっ!』


「ちょ、何で怒ってんだよ……」

『あ、ごめんごめん、ちょっとテンションが上がりすぎてたわ……それより、名刺あったの⁉』


「うん、今日、開店準備しようとしたら落ちてた」

『ククク……やったわね、ジョンジョン……』


紅小谷は悪代官的な雰囲気を出してくる。


「何が? 名刺に何かあんの?」

『クク……あんたも聞いたことあるでしょ、ニコラス・クロウリー』


「ああ、Circle Pitの……」

『そう、そのニコラスが今回の仕掛け人なのよ』


「え⁉ ああ~、だから俺のところにも来たのか……」

『は? 何言ってんの?』


「いや、ニコラスさんは知り合いっていうか、何度かD&Mに来てもらったことがあるから……」

『のえぇーーーーーーーっ⁉ あんたは何でそういう大事なことを言わないのよ! このたっ……まあいいわ。交通費はこっちで持つから、すぐに花さんと東京に来てくれる?』


「えっ⁉ いや……そんな急に言われても花さんだって困るだろうし……それにダンジョンどうすんだよ」

『あんた何眠たいこと言ってんの? こんなチャンス一生に一度あるかないかよ!』


「そ、そんなに? いまいち、その凄さがわかんないっていうか……」

『いいわ……よく聞いて。今回、全国から選りすぐられたダンジョン経営者が招待されているの。選ばれた時点でかなりの宣伝効果が見込めるわ。何たって、大きなニュースになるのは確定だからね』


「そうなの⁉ ニュースに……ていうか、集まって何すんの⁉」

『皆でダンジョンやモンスの知識を競う……『MONSU GAMEモンスゲーム』が開催されるのよ!』


「モ、モンス……ゲーム?」


『ってことだから、詳しくはこっちに来てからね、じゃあ着いたら連絡ちょうだい、じゃねー』


「あ、おい⁉ 紅……」


ったく、いっつも一方的なんだもんなぁ……。

まあ、紅小谷にはいつも助けてもらってるし、協力はしたいところだけど、花さんだって急に東京なんて困るだろう。

しかも、この前沖縄行ったばかりだからなぁ……むぅ、平子兄に殺されかねない。


「おはようございまーす、あれ、ジョーンさん? どうしたんですか難しい顔して」


可愛らしい声に目を向けると、出勤した花さんがカウンターに荷物を置いていた。

少し肌寒くなってきたせいか、ドロップショルダーのカーディガンを羽織っていて、とても良く似合っている。

朝から眼福でしかない、生まれて来てくれてありがとう。


「あ、花さん……うん、まあ……ちょっと」

「……? あれ、それ何ですか?」


花さんが名刺に興味を持ったようで、顔を近づけてくる。


「あ、これね……実は……」

「あぁ~、なるほど! あってるかなぁ……」

「え?」


「これ、『ケバブ』ですよね? あれ、違いました?」


花さんが上目遣いで俺を見る。


「え、ちょ、ちょっと待って、何でケバブなの⁉」

「何でって……そのモンスの絵は、ケルベロスにバーバリアンプッシャー、ブリングファングですから、あ、このブリングファングは引っかけだと思うんですよね、顔のここに髭が無いじゃないですか? これ、ちょっとでも髭があったらリンネルファングですから」

「は?」


「いや、だから、ケルベロスにバーバリアンプッシャー……」

「そ、それはわかる、いま聞いたのが日本語だってことはわかるんだけど、意味がわかんなくて」


一瞬の沈黙の後、花さんが何事も無かったように続けた。


「名刺っぽいから、頭文字を取っただけなんですけど……やっぱ安易だったかもです、へへへ」

「うーん……俺に答えはわからないけど、ものすごくあってる気がする……」


俺が腕組みして唸っていると、

「その名刺が何かあったんですか?」と、花さんが聞いてきた。

「実はさ……」


俺は花さんに紅小谷から聞いた一部始終を説明した。


「なるほど……モンスゲームですか……」

「まあ、花さんも忙しいだろうし、今回は断るよ」


――ガッと花さんに腕を掴まれた。


「ジョーンさん、やりましょう! いえ、やってみたいだしゅ……ですっ!」


か、噛んだ……みるみるうちに花さんの顔が赤くなる。


「い、今のは忘れてください……っ!」

「え、えっと、な、何のことかなぁ! 良くわかんないなー!」


俺は白々しく斜め上を向いて声を上げた。

花さんが仕切り直すようにオホンと咳払いをする。


「すみませんでした。ジョーンさん、ぜひ参加しましょうっ! クイズって楽しそうですし、なんと言っても私の専門分野ですから、お力になれると思いますっ! それに珍しいモンスも見られるかもですし……」と、モジモジしながら言う。


たぶん最後のが本音だろうな……。


「そっか、まあ花さんが良いなら断る理由もないかなぁ、あ、でも、用意とかどうする? それとお兄さん達は……」

「兄なら大丈夫です、今は島中の売り場リニューアルでそれどころじゃないと思いますから。あとで着替えだけ取りに行ってきます」

「そっか、なら紅小谷に連絡しとくよ」


「うわ~楽しみですね!」


愛くるしい笑みを向ける花さん。

か、可愛くて死にそうなんだが……。


「お、おん……そやね」


なぜか大阪の男みたいになる。

それが俺の精一杯の返事だった。

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