第182話 ここは東京表参道

なんやかんやで東京に着いた俺と花さん。

待ち合わせていた新宿駅で、紅小谷と落ち合うことに……。


「おっつー! 花さん、ジョンジョン、こっちこっち!」


改札の向こうで紅小谷が手を振りながら、ラキモンみたいに跳ねていた。

あんな可愛いいものではないが……。


「紅小谷さーん、ご無沙汰してます~」

「花さん久しぶり~、来てくれてありがとね」


「いえいえ、お役に立てれば嬉しいです」

「じゃあ、ちょうど集合場所の近くにさんダの事務所があるから、そこで待ちましょうか」*さんダ・・・7話参照


「さんダの⁉ おぉ~、いっぺん見たかったんだよなぁ!」

「私も気になります!」


「なら良かった、じゃあ行きましょっか」


俺達は横並びになって、さんダの事務所に向かった。



 *



表参道から少し入った場所にあるアンティーク感が漂う低層マンション。

あえて外観はそのまま残してあるタイプで、中は最新設備が整っていた。


「す、すごいですね……」

花さんが小声で俺に囁く。


「うん……」


おいおい、なんだこのセレブ感は……。

舐めてた、マジ舐めてたわ……。


大きな扉を開けると、中はかなりの奥行きがあった。

無垢材を使ったナチュラルモダンな雰囲気。

バランス良く置かれた観葉植物も、見たことがないような葉の大きなものや、珍しいサボテンが並び、紅小谷のセンスの良さを改めて感じた。


「どうぞ、今日はスタッフもいないから、楽にして」

「お、おん……」


うぅ……なんか紅小谷がデキる大人に見えてしまう。


「何か飲む?」


「あ、じゃあコーヒーとかある?」

「あんたの淹れたのと比べないでよ? ウチはインスタントしかないんだから」

「も、もちろん……」


「あ! 私、手伝います」


そう言って花さんが紅小谷のそばに行く。

俺は陽の当たるソファに腰を下ろし、置かれた雑誌を手に取った。


「お、GOダンジョンじゃん……」


ペラペラと記事をめくっていると、花さんと紅小谷がコーヒーを持って来た。


「ほら、ここ置くわよ」

「あぁごめん、ありがとう」


三人でソファに座り、ひと息つく。

事務所にはコーヒーの良い香りが漂っている。


「さて……こっちで掴んだ情報だと、名刺のIDにメッセージを送ると質問が送られてくるらしいのよ、もう送った?」

「いや、まだだな。ちょっと送ってみるか」


俺はスマホで名刺に書かれたIDにメッセージを送ってみた。

自動返信なのか、すぐに返事が返ってくる。


――――――――――――――――――――――

参加者は『名刺に書かれたもの』を持って

日本時間19時に所定の場所へ集まってください。


東京

・渋谷明治神宮前

・新宿西口駅前

・東京駅前


埼玉

……

……

――――――――――――――――――――――


メッセージには参加条件と、各都道府県の集合場所がずらっとリストになっていた。


「名刺に書かれたもの……」


「それってケバブじゃないですか――⁉」

花さんが身を乗り出す。


「何それ?」


俺は紅小谷に花さんの名推理を説明した。


「なるほどね……。確かにそんな気がするわね。でも、ケバブって……そんなもの指定するかしら?」

「うーん、生ものだしなぁ」

「ですよねぇ……」


「「う~ん……」」


「まあ、時間はあるし、ゆっくり考えましょう。ケバブはすぐそこで売ってるから、行くときに買えばいいわ」

「そうだな」

「ですね」



 * * *



「結局、何も浮かばなかったわね」

「ふぃかたふぁいですよ……」


花さんがケバブサンドを頬張りながら答える。


「まあ、所詮はゲームだろ? 気楽にいけばいいんじゃない?」


そう言った瞬間、二人が一斉に俺を睨んだ。


「「所詮は……ゲーム?」」


「ひっ、え……いや……」


「ジョーンさん、いまのは聞き捨てなりません!」

「そうよジョンジョン、あんた舐めてんの?」


「い、いや、そういうわけじゃ……」


花さんがぐいっと顔を近づける。

「いいですかジョーンさん。こういうのって、人間性の問題だと思うんです。たかがゲームと笑うのか、それともゲームに真剣に向き合い、己の可能性に挑戦する気概を持つのか、はたまた……」


あまりに早口で、途中から理解が追いつかなくなってしまう。

俺は僅かな隙を見て弁解してみる。


「す、すみませんでした! でも、俺もやるからには真剣だよ。あまり思い詰めるのも良くないかなーって思っただけなんだよぅ……」

「ホントかしら」と、紅小谷がジト目で見る。

「ちょ、本当だって! 今もちゃんと考えてんだから……」

「ならいいんですけど……」


ふぅ……虎の尾を踏んでしまった。

花さんも大人しそうに見えて熱い魂を持ってるからなぁ……言葉には気を付けないと。


「この辺で待ってましょう」

「そうだな」


明治神宮の前の道で、俺達は並んでケバブサンドを頬張りながら何かが起きるのを待った。


これも青春だな……。

いつか年取ってケバブを食べたら、今日のことを思い出すのかな……なんて思いつつ、その場で待つこと約十分。

一台のワゴン車が映画みたいに『キキッ』とタイヤを鳴らして俺達の前に停まった。


中からサングラスにスーツ姿の男が降りてきて、

「名刺と指定のものを見せていただけますか?」と声をかけてきた。


俺達は顔を見合わせる。

そして、袋に入ったケバブを男に手渡した。


「……」


男は中を確認し、胸元から赤い封筒を取り出す。

そして、目の前で封を開け、中から一枚の紙を取りだした。


俺達は息を呑んで成り行きを見守る。


うぅ……緊張する!


な、長い……!


どうなんだ……⁉





男はゆっくりと口を開き、「な~いす……」と言いながら俺達を見て、

「ケバブッ!」と、くるっと紙を回転させ、俺達に見せた。


――――――――――――――――――――――――――


     正解  ケバブ


~係員の方へ補足~

〇→ケルベロス×バーバリアンプッシャー×ブリングファング

×→ケルベロス×バーバリアンプッシャー×リンネルファング

毛針を持って来た方には退場通告してください。


――――――――――――――――――――――――――


「お、おぉ~……花さんマジで神……」


俺達は安堵の息をつく。

緊張から解放され、少し肩が軽くなった。


「おめでとうございます! 壇ジョーン様、そしてお連れの皆様、それでは会場へご案内致しますので、お車の方へどうぞ」


胸に手を当て、男はスッと頭を下げた。


「い、いくわよ二人とも!」


紅小谷が先陣を切る。

俺と花さんはそれに続いた。

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