某大手のオネイロス編
第142話 某大手のオネイロス編① 革命は突然に
ピピピピ……。
一泊二日の東京旅行から戻った翌朝、スマホのアラームで目が覚めた。
「ん……んあ~、ふぅ……」
布団から出て、カーテンを開ける。
良い天気だなぁ……って、あ、暑うっ⁉
何だよ夏全快じゃないか、こりゃ多めにお茶を用意しておかないと。
昨日は帰ってから皆にメールをした後、メモの内容を見返し、何かD&Mに活かせるヒントはないかと考えていたのだが、そんな簡単に名案が思いつくわけもなく、結局、いつの間にか眠ってしまっていた。
俺は机の上のペンを手に取り、メモ帳と一緒にバッグに入れた。
まさか、花さんがプレゼントをくれるなんて。
多分、病棟で俺がメモしてたのを見てたのかな?
デスワーム型のペンっていうのが、何とも花さんらしいけど。
「いってきまーす」
「おーう」
居間から爺ちゃんの声が聞こえる。
おにぎりと、凍らせた大量のお茶を持って、俺はダンジョンへ向かった。
*
全方向からの熱気に圧迫されながら獣道をのぼる。
な、なんだ、このむせ返るような熱さは?
まるで、サウナの中を歩いているみたいだぞ……。
ダンジョンに着いた頃には、汗が止まらなくなっていた。
「ひぃ~、あちち……」
早速、掃除道具を用意していると、奥からラキモンがぴょんぴょんと跳ねながらやって来た。
『ぴょ~、ダンちゃん、ダンちゃん!』
「お、ラキモンじゃないか、どうだ調子は?」
タオルで汗を拭きながら、ラキモンの頭を撫でた。
『う~ん、暇ラキねぇ……』
「そ、そうか……、アレ食うか?」
『うぴょ⁉ くれるラキ⁉』
「ああ、ちょっと待っててな」
きゅるんと目を輝かせ、ラキモンはその場でそわそわと待ち構えている。
俺は棚の引き出しから瘴気香を取り出して、ラキモンに渡した。
『うっぴょぴょ~♪』
いつもの勢いでラキモンが齧り付くのかと思いきや、意外に優雅な所作で染料を入れた升にちょいちょいと瘴気香をつけて食べた。
「……ちょ、それって美味しいのか?」
『うまラキよ~うまうまラキ~!』
手に付いた染料をチュパチュパと舐めた後、ラキモンは小さく跳ねながらご機嫌な様子でダンジョンに帰って行った。
「あ……」
やれやれ……、おっと、時間時間。
俺はデバイスをOPENにした。
*
だが……、待てど暮らせどダイバーが来ない……。
なぜだ? 何かあったのか?
俺は協会のサイトを確認したり、ネットニュースを調べたり、外に出て上から獣道を覗いてみたりするが、一向にダイバーの訪れる気配はなかった。
――こんな事ってある?
もしかして、定休日と勘違いしてるとか?
スマホで曜日を確認し、サイトの告知も間違っていないか調べるが、間違いは無かった。
ま、まあ、長くやってればこういう日もある……のか?
段々と不安になってくるぞ……。
駄目だ! こういう時こそ、前向きに考えなければ!
カウンター岩に戻り、この時間を利用して、夏のイベントのアイデア出しを行うことにした。
エンタメかぁ……。
真っ白なノートを睨みながら考えるが、何も思い浮かばない。
「あ、そうだ!」
AXCISのメモ帳を開き、ダンジョン病棟でメモした事を見返してみる。
うーん、病棟の装飾は、細かいところまで徹底してたよなぁ。
ウチはどうだろう?
五階層までは洞窟タイプだし、ヒカリゴケに関しては相変わらず評判も良いから問題はないと思うが、六階層からの迷宮フロアは、もう少し改良できるかも知れない。
DPにも余裕が出てきたし、思い切って改装するべきか……。
「う~ん……」
改装といっても、ノリでやるのはいただけない。
きちんとコンセプトを決め、エンタメに昇華しなければ!
ホラーは病棟の二番煎じ、うーん何か良い案は……。
ブブブーブブブー!
突然、スマホが震えた。
「ん? さんダの速報? なんだろ、珍しいな」
特別なニュース以外の通知は切ってあるんだが……。
「えっ⁉」
スマホの画面を見て、思わず声が出た。
――――――――――――――――――――――――
×月○日 業界最大手、革命を起こす――⁉
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にわかに信じがたいニュースが飛び込んできた。
本日未明、業界最大手ダンクロの子会社で、主にデバイス関連の開発を手がける『
開発元によれば、このデバイスを使う事により、ダイバーの視覚上に、あたかもゲーム世界のようなインフォメーションウィンドウや、映像を表示させる事が可能になるとのこと。驚くべきは、ダイバー側が何も装着せず、普段通りにダンジョンに入るだけで上記の効果が得られるということだ。
既にダンジョン協会の運用試験テストをクリア、先行導入はダンクロ旗艦店である新宿歌舞伎町の『アンダーグラウンド』に決定。その後、池袋、渋谷と続き、大々的にダンクロチェーン全店にて導入を開始すると関係者は鼻息を荒くした。
本格導入後、ダイバーに支持されれば、従来タイプのデバイスでは満足できないようになるのは想像に難くないだろう。
今まさに、ダンジョン業界に革命が起きたと言っても過言ではない――。
――――――――――――――――――――――――
「た、大変だ……」
――ど、どうすんの、これ⁉
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