第143話 某大手のオネイロス編② 舞台は新宿へ
「てなわけで、ダンジョン経営者にとって、この技術はポールシフト並の転換期になると思うわ」
「……」
突然押しかけ、小一時間ほどオネイロスについて語った紅小谷は、ちゃぶ台の上のせんべいを囓った。
うーん、話を聞けば聞くほど、目眩がしそうだ……。
「まあ、ダンクロ一強になるのは時間の問題かもね」
「ちょ! そんなぁ……」
「こればっかりは、どうすることもできないわよ。むしろ、ここを乗り切れない経営者に未来は無いと思った方が良いわよ?」
「そ、そのデバイスをウチも導入すれば……」
紅小谷はフッと鼻で笑い、
「無理無理、そんな優位性のある商品を他に流すと思う?」と右眉を上げた。
「お、思わない……けど」
「でしょ? 何処か別の会社が似たような物を出すか、一般向けのデバイスに実装されるのを待つか、どっちにしろダンクロには遅れを取るわね」
「だよなぁ……はぁ、どうしよう……」
ちゃぶ台に頬を付け、
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……」と唸っていると、
「たわけーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」と紅小谷が叫んだ。
「は、はいぃっ! って、何だよ突然⁉ 心臓がとまるかと……」
紅小谷はちゃぶ台に片足を乗せ、俺を指さした。
「ジョンジョン! あんた、ダンジョン病棟で何を学んで来たの⁉ 限られた手札でいかに戦うかでしょ⁉ その目で何を見てきたのよ、このたわけがーーーーっ! 」
「べ、紅小谷……」
そ、そうだ……そうだよ。
ここで腐っていても、何も始まらない!
「ごめん、俺が間違ってた、やるよ、少しでも楽しんで貰えるダンジョンにする!」
「ジョンジョンなら、そう言うと思ってたわ。じゃあ、そろそろ行きましょうか?」
「え? ちょ、どこに?」
「たわっ……何でわざわざ私がここに来たと思ってんのー! まずは敵を知る! さ、歌舞伎町アンダーグラウンドに乗り込むわよ!」
「東京⁉ ちょ、どうやって? 全然用意なんてしてないよ!」
紅小谷は不敵な笑みを浮かべ、部屋の壁時計を見た。
「そろそろね……」
ふいに、玄関の戸が開く音が聞こえた。
「ごめんくださーい」
あ、あの声は⁉
紅小谷に背中を押され、玄関に向かう。
「うわっ⁉ ま、眩しい!!」
そこには、真っ白な歯を輝かせる矢鱈さんの姿があった。
*
AMA航空、高松空港→成田空港行。
なんと、矢鱈さんが三人分の飛行機代を用意してくれていた。
さすがトップダイバーである。
機内に入り、窓際に紅小谷、真ん中に矢鱈さん、通路側に俺の順番で座った。
「あのぉ……、ホントにいいんですか?」
「ん? ああ、別に気にすることないよ。僕のお金じゃないしね」
そう言って、矢鱈さんは爽やかに笑う。
「え⁉ どういうことです……?」
「仕事柄、僕は移動が多いからね。航空会社からチケットを貰えるんだよ」
矢鱈さんが言うと、紅小谷が横から口を挟んだ。
「矢鱈くんが使ってるだけで、航空会社からすれば良い宣伝になるのよ」
「そ、代わりにSNSで写真をアップしたりしなきゃいけないんだけどさ、でも、ありがたい話だよ、お蔭で旅費も浮くしね」
「あ、なるほど……」
「そう言えば、この前、面白いダンジョンに行ったよ」
「海外ですか?」
「うん、インドに強欲の泉って場所があるんだけどね、そこは巨大なホールみたいな、開けたワンフロアタイプのダンジョンで、フロアの中央に泉があるんだ」
「へぇ、珍しい造りですね」
「結構、古いみたいだけど、未だに観光客や地元のダイバーで賑わってる人気のダンジョンでね、フロアには無限に『ギニー』っていう小さなゴブリンみたいなモンスが湧いて出るんだけど、そいつを倒すと泉の色が段々と濁っていくんだよ」
「そのギニーってのは強いんですか?」
「いや、普通に一般の人でも簡単に倒せるよ。でね、その泉、最終的に真っ黒に染まるんだけど……、どうなると思う?」
「え、うーん……、強いモンスが出るとか?」
「そう! 何と必ずレイドが発動するんだよ、凄くない?」
「ま、毎回ですか⁉」
「そうなんだよ、そのダンジョンの何がすごいって、そのレイドが起きると、皆が倒してきたギニー分のDPを持ったレイドボスが現れるんだ。ボスはその時々で違うけどね。で、倒すとまた、泉は透明に戻る。もう何百年もその繰り返しなんだってさ」
「それなら、確かに人気が出るのもわかりますね。サイクルはどのくらいですか?」
「大抵、年に一回、多い時は二回あった年もあるみたいだね」
「へぇー、やっぱ海外も行ってみたいなぁ……」
「そうだねぇ、まずは近場から行ってみると良いよ、フィリピンとかお勧めかなぁ。タイミングが会えば、一緒に行ってもいいしね。ま、今回は、新デバイスを堪能しようか?」
「はい!」
――皆様、ただいま成田空港に着陸いたしました。ただいまの時刻は午前11時35分、気温は摂氏27度でございます。
安全のためベルト着用サインが消えるまでお座りのままお待ちください。
CAさんの流暢なアナウンスが流れる。
さあ、一体、どんなシステムが待っているんだろう。
ワクワクする反面、怖さもある。
もし、圧倒的な面白さに打ちのめされたら……。
そんな不安な気持ちを知ってか知らずか、紅小谷が俺の背中を叩いた。
「ほら、ボーッとしない! しっかりする! 行くわよ!」
「あ、ご、ごめん」
「ははは。さ、行こう」
「はい!」
俺達は空港に降り立ち、新宿へと向かった。
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