第89話 灯台もと暗しです。
「う~ん」
「どうしたんですか?」
花さんが後ろから覗き込むようにして言った。
「あ、うん……、ほら、この間小林さん(AXCIS)に教えてもらったやつ、作ってたんだけど……」
俺はカセットコンロに置いた雪平鍋を見せた。
「え……、話ではグミみたいになるって言ってませんでしたっけ?」
そう言って、鍋を覗き込む花さん。
「そうなんだよね、ヤドリギソウがなかったから、オトギリソウで代用してみたんだけど……」
「……それは、駄目じゃないですか?」
花さんが苦笑いを浮かべる。
「や、やっぱり? 何かサッラサラになっちゃって……」
鍋の中のスープのような液体を少し指に取って見せる。
「ほら、サッラサラ。これ塗るとめっちゃ滑る」
俺は金槌に液体を塗り、木板の上に乗せて傾けた。
少し傾斜を付けただけで、金槌がカーリングのようにシャーッと地面に滑り落ちる。
「本当ですね、逆にこれだけ滑れば何かに使えそうですけど……」
「うん、そう思って利用法を考えてたんだけどさ、思いつかなくて……ははは」
「あ、時間が経てば性質が変化するかも知れないですよ?」
「なるほど、確かに……、じゃあちょっと保存しとくかな」
俺は手頃な空き瓶に謎の液体を流し込み、アイテムボックスに入れた。
ダンジョンをOPENして、小一時間経った頃。
「やっほー、花さん。ジョーンさんもおつです」
「絵鳩ちゃんだ、いらっしゃーい」
「おー、いらっしゃい」
絵鳩は花さんと何やらキャッキャしている。
花さんとこんなに仲良かったっけ? と思いつつ受付を進める。
「あれ、今日、蒔田は?」
「まっきー、いま大変なんですよ。家にこもっちゃって」
「「え?」」
俺と花さんは同時に声を上げた。
「な、何かトラブルとか……」
「ち、違いますよ! パパに3Dプリンタを買ってもらったらしくて、一日中、何かやってます」
「3Dプリンタ……」
そういえば蒔田ってDIY好きだったよな?
メガ牛鬼砲も作るぐらいだから、そりゃあ……。
「⁉」
「ジョ、ジョーンさん?」と絵鳩。
ちょ、ちょっと待てよ……。
おいおい、良く良く考えるとメガ牛鬼砲って、めっちゃ凄いくない?
インディーズ・ウェポン界隈でも、あんなの見たことないし……。
しかも、あの破壊力……。
こんな身近に、とんでもないポテンシャルを秘めた逸材がいたとは。
「蒔田って何者?」
「何者って言われても、女子高生としか……」
絵鳩がこいつ何言ってんだという目で俺を見た。
「メガ牛鬼砲って、蒔田一人で作ったんだよね?」
「あぁ、そうですよ」
「……昔からそういうの得意なのかな?」
「あ、そういえば、前にお家に行った時、工作系の本がいっぱいありましたね」
花さんが横から口を挟む。
「うん、確かに前から好きだって言ってたけど……」
なるほど……、ということは、俺より知識も経験も上。
謎の液体もそうだけど、ちょっと色々相談したいなぁ。
「そっか、今度いつ来るかな?」
「それは知りませんけど、何か伝えます?」
絵鳩は花さんから、白雲とフェザーメイルを受け取りながら俺に訊いてきた。
「あ、そうだな……、じゃあ武器制作でちょっと相談したいって言っといてもらえる?」
「はーい」
絵鳩は返事をしながら更衣室に入った。
「ちゃんと言っておいてくれよー。頼んだぞ?」
俺が念を押すように言うと、更衣室の中から、
「 わ か っ て ま す け ど ! 」とキレ気味の返事が聞こえた。
「あ、あはは……ごめんごめん」
――閉店後。
「じゃあ、ジョーンさんお先です、お疲れ様でした~」
「うん、ありがと! お疲れ様~」
一人ダンジョンに残った俺は、アイテムボックスから朝作った液体の瓶を取り出した。
「ん?」
・ガムーラ液
「んんっ?」
解析されて、アイテム名が表示されている!
ということは、すでに誰かが作ったことのあるアイテムだったのか……。
※27話バック・ドアが開きました(後)に解説あり
木板と金槌を取ろうとすると、ガチガチにくっついて取れなくなっていた。
「うぉっ⁉」
か、硬い!
思い切り引っ張ってみるがビクともしない。
筋トレで鍛えた俺の力を持ってしても剥がれないなんて。
サッラサラからカッチカチになる液体……。
鼻息を荒くして、アイテムの解説を読んで見ることに。
・ガムーラ液
40度以上で液状になり、冷えると硬化する。
加熱し直すと、再び液体となるので注意。
「むぅ……」
解説を読み考え込む。
とすると、接着につかうのは危険だな……。
「うがーっ!」
折角使えると思ったのに。
仕方なく、俺はお湯をかけて金槌を剥がし、道具を片付けた。
ゆっくり使い道を考えるか……。
今度、小林さんにも聞いてみようかな?
何かいい方法を知ってるかも知れないし。
「あ、そうだ!」
俺はアイテムボックスからP・Jを取り出し、棚のスペースを空けて飾ってみた。
「お~、いい感じじゃん!」
薄ピンクに輝く短剣。
やっぱりこういう武器が飾ってあると、雰囲気でるなぁ~。
写真も撮っておこう。SNSにも上げてっと……。
ふふふ。
次は何を作ろう?
ロングソードにも挑戦したいし、ロッドとかでもいいかも……。
ま、家でうどんでも喰ってゆっくり考えるとしよう。
俺は火鉢の火を落とし、デバイスをCLOSEにしてダンジョンを後にした。
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