第3話 始まりそうです。
初日。
昼、ダンジョンに
夕、ダンジョンへ続く獣道の清掃をする。その他片付けなど。
夜、風呂場で陽子さんと鉢合わせになり気まずくなった。うどん食って寝る。
二日目。
朝、ダンジョンに瘴気香を交換に行く。異常なし。うどんを食べる。
昼、うどんを食べて、ダンジョンへ続く獣道に縁石を並べるが、気に入らないのでやめた。
夜、爺ちゃんと陽子さんが一緒に風呂に入るのを目撃する。気まずくなり、うどん食って寝る。
三日目。
朝、ダンジョンに瘴気香を交換に行く。もう少しで終わり。うどん。
昼、うどんを食べていると、モニタリングデバイスが届く。色々と設定する。ワクワクが凄い。
夜、今後の構想を考える。うどん食って寝る。
そして今日。
ついにコアを瘴気香で燻し始めて三日が過ぎ、今日はダンジョンを一日寝かせる予定なのだが、不味いことになった。
――この三日間、うどんしか食べていない。
だが、その辺りは俺も若いとはいえ、自立した大人である。
自分でなんとかしたいと思います。
さあて、今頃ダンジョンの中ではコアが活性化し、早ければモンスターが発生しているかも知れない。
見たい……。あぁ……見たい。
見たいってばよぉぉぉぉ……。
時計に目をやる。まだ昼前か……。
「はあ、我慢我慢」
一日寝かすと言っても、気になってしまうのが人の性。
人間だもの、仕方ないさ。
しばらくして、段々と堪えきれなくなってきた。
以前、テレビで見た自己啓発セミナーの手法を試してみるか……。
「我慢するぞ我慢するぞ我慢するぞ我慢するぞ我慢するぞ我慢するぞ」
うーん、駄目だ。あぁ、見たいなぁ……。
すぐ裏手に行けばあるのになぁ……。
俺は畳にうつ伏せになり、右頬をつけたまま溜息を吐く。
ざわ……
ざわ…… ざわ……
ざわ……
「ああ、もう! 気になって仕方がない!」
勢いよく起き上がり、明日に備えて、ダンジョンに発生するであろうモンスターを予想することにした。この地域のダンジョンには、大型モンスターは発生しにくく、中型、小型が多い。ウチも例外なくそういう構成になるだろう。当面、コアが力を付けるまで強力なモンスターは出ないと思うから、やはり明確な経営戦略が必要だと思う。
「うーん……」
ダンジョン協会のサイトでデータを見ながら考える。
まず、ダンジョンのコンセプトだ。
ウチみたいな個人ダンジョンが支持を得るには、大手に無い何かを探さねば。
脳内でMouTubeが再生された。
男が現れ、軽妙な語り口で番組が始まる。
さ、今日は「妄想の宮殿にある魔法のランプをこすってみた!」ってことでね。
こちらのランプをこすりますと、あら不思議。
出たっ!!
はい、煙の魔人。ドーーーーーーン!
おやぁ? 何か言ってますねぇ? 聞いてみましょう。
魔人が男に耳打ちする。
『おいおい』はいはい。
『お前ラキモンがいれば』はぁ、ラキモン。
『OKみたいに言ってただろ?』はいはい、なるほどです!
要は「
いかんいかん、妄想が癖になりつつある。
確かに、ラキモンがいれば自ずとダイバーは集まるだろう。
だが、甘い、甘すぎるのだよ!
浸透するのには時間がかかる。只でさえ、ラキモンを見つけると他人に教えたがらないものなのだ。
少ないヘビーユーザーも心強いが、グッドダンジョン賞のようなダンジョンに選ばれるには、それだけでは足りない。ライトユーザーの心もガッチリと掴まねば、俺の描く理想のダンジョンとは言えない。
幸い、俺にはチップで貯めたDPがある。
これを有効に使い、ダンジョンの質を高めたいと思う。
DPを消費し、得られるアイテムは多い。
ダイバー用の武器、防具、アイテムに始まり、経営側が設置できるトラップやゲートキーパーなど多岐に渡る。それもコア次第で変わるのだが……。まあ、ウチのコアが上物である事を祈ろう。
「付加価値をどうするか……」
大手がこぞって24H
次に中規模チェーンはイベントを打つダンジョンが多い。来店DPの付与や、初回探索DP無料とか、独自ポイントシステムなど。ダイバーはダンジョンに潜る際、入店DPを支払う(業界相場は500~1500DP)のだが、新規客を増やす為にそれをサービスしましょうという還元型サービスが多い。これは一考の余地ありと見る。
そして、個人ダンジョンに関しては、ダンジョンごとに独自色を強めたサービスが多く見られる。
中でも、綺麗なお姉さんと同伴ダイブ出来る『デート男女ン』はかなり人気だ。無店舗型と言われる業者もいて、街中で声を掛け、マッチングが済めば提携先のダンジョンへ連れて行くというタイプもある。
世の中、アイデア次第。俺も負けてはいられない。
うーん、入口を自動改札にする? これは無理。
日替わりゲートキーパーとか? コストがなぁ……。
フードスペースを設置する? 誰が作るのだ、うどんしかないし。
土日DP二倍……。安易すぎる、却下。
スライムにライスジュレを混ぜて……駄目だ、いくら高アミロース米だからと言ってもダンジョンから持ち帰ることが出来なければ意味は無い。
毎月24日は死なない日。ダイバーはダンジョン内で死ぬとペナルティを受けるのだが、それを負担しましょうというサービス。うーん、無理。わざと死なれたら割に合わない。因みに
「あーーーー」
大分、煮詰まって来た。
気分転換に愛読書の月刊GOダンジョンをめくる。ダイバーに支持を得る情報誌で細かな記事が多い。
ぺらぺらとページをめくっていると、一つの記事で目が止まった。
――時代はSNS映えに。
記事には、派手に入口を飾り付けたダンジョンの前で写真を撮る若者の姿が。
――以下、「月刊GOダンジョン三月号」記事原文。
『ここ最近、ダンジョン前で撮影をする若者を目にする方も多くありませんか? そうなんです、時代はSNS。変わった景観のダンジョンを撮影し、自身のSNSに投稿する若者が急増しているのです。今日は兵庫県伊丹市にある「ダンジョン伊丹」を取材しました』
記者:はじめまして、早速ですが凄い入口ですね? これは皆さんでやられたのですか?
ダ主:はい、スタッフと力を合わせて、お客様に楽しんで貰えるように頑張りました。
記者:なるほど、それは素晴らしいですね。反響の方はどうですか?
ダ主:おかげさまで、過去の最高記録を更新中です。
記者:おぉ~!(感嘆)おめでとうございます。何か宣伝などは?
ダ主:当ダンジョンのSNSから紹介させて頂いているのと、フォロワー様からも口コミで応援を頂いております。
記者:なるほど、心強いですね。今後はこういったダンジョンが増えると思われますか?
ダ主:そうですね、増えると思います。ですが、正直やって欲しくはないのが本音です。(笑)
記者:独り占めですか?(笑)では、最後に何かメッセ―ジがあれば、どうぞ。
ダ主:えー、私ども伊丹ダ……以下面倒なので略。
SNS映えか……。
俺の何かが危険信号を感知する。安易に乗っては駄目だ。
見てくれだけ装って、その場限りの客が来ても意味がない。
ダンジョンはダンジョンらしくあるべきだ、と俺は思う。
入口を飾る? 馬鹿馬鹿しい。
ダンジョンは非日常な雰囲気であって然るべきもの。
潜って、探索して、戦って、死にそうになってこそのダンジョン。
少なくとも、俺のダンジョン哲学はそう言っている。
しかし、時代の流れに逆らう経営者は生き残れない。
それも歴史が示した必然たる事実。
うーん、どうしたものか……。
そうだ! ガイドだ! 同伴は無理としても、レンタルガイドなら……。
しかも、それをモンスターにやらせれば?
レンタル・ガイド・モンスター。レンモン!
そう、ペットのような可愛くてニクい奴。
キャッチコピーが浮かぶ。
『貴方のサポートをしますモン』
ちょ……俺は天才じゃないだろうか? いかん落ち着け!
実現は、か、可能か? 俺は興奮気味に思考を巡らせる。
コアから言葉の通じるモンスターを選び、召喚。
直接、モンスと交渉し、雇用契約。
報酬は1ダイブにつき、瘴気香一本ぐらいか?
まあ、その辺はモンスに訊けばいい。
そうだ! 何ならラキモンに交渉させる手もあるぞ……。
イケル! これはイケルぞぉぉぉぉぉぉぉ!!
自分の才能が怖い。
今日ほど、明日が待ち遠しい日があったであろうか?
――待ってろよ、ダンジョン。
以上、うどん食って寝る!
――深夜。
「駄目だ……眠れぬ」
俺は布団から出ると、そのまま懐中電灯を持って外に出た。
虫の鳴く音が響く。
都会育ちの子供が聞いたら驚くだろうな。
冷たく、湿り気のある空気の中、俺はダンジョンへ向かっていた。
夜露に濡れた草でサンダルが滑って歩きにくい。
転ばないように慎重に進む。
夜になると、すっかり印象が変わるなぁ……。
不思議と怖い感じは全くない。
むしろ、ダンジョンが近づくにつれ、期待と共に胸が高鳴っていく。
懐中電灯に照らされて青色が光った。
入口に青いビニールシートをかけて塞いでおいたのだ。
「ちょっとだけ……いいよね?」
誰に聞いてるのだ、俺は?
うっひょー! 緊張する! 手に汗が!(;^_^A
重石をずらして、そっと、そっと覗き込む。
「うーん、何も見えん」
少しだけ、ライトを照らしてみようか?
駄目だ、段階を踏んでいるだけで、俺は欲望のままに行動している!
……。
厳密に言えば、もう夜中の12時を回っているので、一日寝かせた事になるな。うん、そうだそうだ。
俺はブルーシートの隙間にライトを向けた。
「煙がまだ少し残ってるのか……ん?」
何か、手前の所で光った気がする。
「あれ?」
また光った!
よーく見てみると
「す、すらいむ、スライムじゃん!! ねぇ? 見た?」
な、なんという感動!
モンスが、モンスがいる! ぷるぷる震えとる!
自分の手で育てたも同然、俺は止まらない感動に打ちひしがれるぅ! ウリィッー!!
ああ、きっと朝まで我慢していれば、この倍以上の感動があったのかも知れない。
だが、それはそれ。
俺はきっと一生忘れまい、この真夜中の奇跡を!!
そっと、重石を戻し家路に着く。
朝にはどうなっているのか楽しみだ。
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