第26話 バック・ドアが開きました(中)
グランイエティに迫る曽根崎。
『グヴォオオオオ!!』
咆哮をあげ、グランイエティは石柱のような腕を曽根崎目掛けて振り下ろす。
ドン! と突き上げるような音、地面の氷には蜘蛛の巣のような亀裂が入った。
「あぶねっ!」
曽根崎は素早くグランイエティの股の間を潜り抜けた。
そして、背後に回り、クライヴォルグを足の膝裏に突き刺す。
『ヒギィイイイイ!!』
グランイエティが巨体を揺らして片膝をつく。
「トドメだ!」
曽根崎が走り出す。
グランイエティの片膝から肩に駆け上がり――飛んだ。
「うおおおおぉっ!! 貫けぇえええっ!!!!」
クライヴォルグの鋭い矛先が、グランイエティの肩に突き刺さる。
そのまま、クライヴォルグはグランイエティの身体に沈み、次の瞬間――霧散した。
曽根崎が体勢を崩して、地面に尻餅をつく。
「ててて……」
矢鱈が手を差し出して
「お疲れ様、いやー、最後の良かったよ」と褒める。
「いやいや、削りきれるか心配でしたけどイケました、ははは」
曽根崎は矢鱈の手を取り起き上がった。
身体の雪を払っていると、曽根崎が何か転がっているのを見つける。
「ん? お! やった!! ドロップしてます!」
グランイエティからドロップした、雪球を二個見つけた。
雪球とは、字の通り雪を丸めて作った球で、イエティは大事なものを雪球の中にしまっておく習性があるのだ。個数や大きさはイエティによって様々で、今回ドロップしたグランイエティの雪球は、普通の物より、やや大きめであった。
「へぇ、大きいね」と矢鱈が覗き込む。
「中に何があるか楽しみです」
雪球の醍醐味は開く瞬間だ。
曽根崎は甲賀手裏剣を取り出し、雪球をケーキのように切り始めた。
ある程度、刃先が入ると綺麗に亀裂が走りパカっと開く。
雪球の中心部分は空洞になっていて、その場所に赤く輝く指輪が見えた。
「やった! マジで!?」
指輪系はレアな物が多く、属性効果がある物が多い。
矢鱈にも見えるように、曽根崎は指輪を指先でつまんで見せた。
「うーん、これは発火石だね」
「発火石?」
曽根崎が訊き直す。
「そう、発火石。便利だよ、火を使う時にライター代わりになる」
「へぇ~、それは良いっすね!」
と言いながら、曽根崎は指輪をはめた。
「お~、綺麗、綺麗」
「次のも開けてみてよ」
矢鱈はもう一個の雪球を指さした。
「へへへ、ちょっと待ってください」
曽根崎が同じ要領で、雪球に亀裂を入れる。
今度は一見して何かわからない。黒い石のような塊。
「なんだろう、これ……?」
曽根崎がそれに触ろうとすると
「ダメだ! 離れて!」
矢鱈が叫び、その石を足で蹴った。
「あ!」
石が氷面を滑っていく。
そして滑り止まった瞬間、黒い炎の様なものが吹き出した。
「な、なんだ!?」
「曽根崎くん、構えて!」
矢鱈はすでに戦闘態勢に入っている。
慌てて、曽根崎もクライヴォルグを構えた。
黒炎は見る見るうちに大きくなり、その黒炎の中から鋭い爪の生えた手が覗く。
「モンス!?」
「降魔石だよ、モンスを呼ぶんだ」
矢鱈がそう言うと、曽根崎は息を飲んで黒炎を見つめる。
「こりゃやばそう……」
黒炎が一際大きく燃え上がり――消える。
そして、薄煙の中、まるで執事のように胸に手を当てたモンスが現れた。
青色の肌、金色の瞳、黒炎のような髪がゆらめく。
上半身は人間に近く、下半身は山羊。
それは魔人種であった。
「……初めて見た」
魔人はゆっくり顔を上げ、こちらを見て口を開く。
赤い舌を出し、尖った牙が並んでいるのが見えた。
そして、ゆっくりとその顔を一回転させて笑う。
『ケケケケケケ!!』
「こ、怖っ!!」
曽根崎が驚いたその時――風が吹く。
矢鱈だった。
凄まじい速さで、矢鱈は魔人に襲いかかり、首を
どすっと鈍い音が響き、魔人の首が氷面に転がった。
「や、矢鱈さん!」
「曽根崎くん、まだだ!」
魔人の首はけたたましい笑い声を上げながら、宙に浮く。
「くっ、この野郎!!」
曽根崎は咄嗟に、残った胴体へクライヴォルグを突き刺した。
しかし、確かに貫いたはずだが手応えがない。
魔人の胴体は、槍に貫かれたまま曽根崎に抱きつく!
「うわっ! 離せ!」
矢鱈は上空を旋回する頭部目掛けて剣を振り抜く。
――シュッ――と風を切る音が聞こえると同時に、頭部が二つに割れた。
「ちっ、逃したか」
割れた頭部は牙を剥き、そのまま曽根崎に襲いかかった。
『ケケケケ!!』
「曽根崎くん!」
矢鱈が叫ぶ。
曽根崎は足でクライヴォルグを挟み、割れた頭部の片方の攻撃を防いだ。
しかし、もう片方の頭部は曽根崎の肩に喰らいつく。
『ガシュルルルル』
「うわわわ!!」
矢鱈が急いで頭部を引き剥がし、胴体の腕を切り落とした。
拘束が解けた曽根崎は
「あ、あざっす!」と言って、距離を取った。
「曽根崎くん、あれはバーメアスという魔人種だ、核を破壊しない限り死なない」
「バーメアス……核はどうやって見つけるんですか?」
矢鱈は笑い
「わからないから、全部潰す!!!」
と言って胴体に向かって走った。
「よっしゃあああ!! 燃えてきたーー!!」
曽根崎はクライヴォルグを回転させ、頭部目掛けて三連撃を放つ。
『グケケケケ!』
左右から頭部の挟撃!
曽根崎は身を屈めて躱し、甲賀手裏剣を投げる。
『グケッ!!』
片方の頭部が地に落ちる。
すかさず残った頭部に三連撃を撃つ!
空中で肉片となり、落ちた頭部にトドメをさした。
振り返ると、矢鱈はすでに胴体を切り刻んでいる。
「やったっす!」
と、曽根崎が矢鱈に声を掛けると、矢鱈がガイアシールドを投げた。
曽根崎が慌てて身を伏せると、曽根崎に喰らいつこうとしていた頭部が破裂する。
そして、バーメアスが霧散した。
「あ、あぶねー! す、すみません矢鱈さん」
曽根崎が矢鱈に駆け寄る。
「大丈夫だった? いやぁ、まさかバーメアスとはね。グランイエティも粋な事をする」
「あれは上位種なんですか?」
「ん? いや、中位種だね。ただ、魔人種は変な特性を持つ奴らが多いんだよ」
矢鱈は剣を鞘に収め、ガイアシールドを拾う。
「なるほど……。あ、しかもドロップなしっすよ! あの野郎」
「ははは、まあまあ。それ、ちょっと見せて」
矢鱈は曽根崎の肩を指さす。
「あ、ああ。大丈夫っすよ、これぐらい」
「ダメダメ、ほら早く」
「あ、はい」
曽根崎はアンチェインメイルを脱ぎ、肩を見せた。
傷口は少し赤くなっている程度で、それほど深くはない。
矢鱈は、腰袋から小箱を取り出し、中に入っていた軟膏を傷口に塗った。
「はい、いいよ、これで大丈夫」
「すみません、あざっす!」
曽根崎が慌ててアンチェインメイルを着て
「さ、寒い……」と身震いする。
「はは、さあ行くよ?」
「うす!」
二人は、さらに奥を目指して歩いていく。
「しかし、広いっすねぇ」
「うん、緩やかに降りている感じがする」
地表に氷が張ってない部分が目立ってきた。
――生暖かい風が吹く。
「なんか、暑くなってきましたね?」
「そうだね……、そろそろフロアが変わるかな」
もうすっかり辺りは草原に変わっている。
「やべーっす、暑い、なんだこれ」
顔から滴る汗を拭いながら曽根崎が言った。
「まいったね、あ! 階段があるよ」
矢鱈の指し示す方向に、階段が見えた。
階段の上の空間が、陽炎のように揺らめいている。
「なんすか、あれ……」
「暑そうって事はわかるね」
矢鱈は苦笑いで答えた。
近くまで行くと、凄まじい熱風が二人を襲う。
「ひーっ! あっちぃ!」
「まるでサウナだね」
曽根崎が腰に下げていた水筒を取り、頭から水をかける。
「矢鱈さんもかけますか?」
「いや、僕はこの鎧を着てるから大丈夫だよ」
「リフレクトメイルっすか、そんな効果が?」
「うーん、完全じゃないんだけど軽減効果があるんだ」
「便利っすね~」
曽根崎が羨ましそうに鎧を眺める。
「さあ、行けそう?」
「大丈夫っす! 気合っすよ!」
二人は頷くと、階段を降り始めた。
一段降りる度に、気温が上昇するように感じられる。
奥は洞窟タイプだが、この温度は異常だ。
「一体、どうなってんすかね……」
汗を滝のように流しながら曽根崎が言った。
「何か原因があるはずだけど……」
二人はさらに奥へと歩いていく。
すると、目の前に丸い岩の様な物が道を塞いでいるのが見えた。
「あれは……」
岩の亀裂が赤く溶岩のように光っている。
「どうやら、この暑さはアレのせいみたいだね」
矢鱈が剣を抜く。
それに合わせて曽根崎も槍を構えた。
――ゴゴゴゴゴ……。
岩が音を立てて動く。
まるで巨大な壁のようなモンスがこちらを向いた。
「メルトゴーレム!」
曽根崎が叫んだ。
「曽根崎くん、
メルトゴーレムの額にGの刻印が見えた。
「てことは、こいつを倒せば……」
曽根崎がクライヴォルグを回転させる。
『オオオオオォォォ……』
腹を抉るような重低音が響く。
鼓膜を直接押すような声。
矢鱈がガイアシールドを投げつけるが、表面を少し削っただけだった。
「意外と硬いね」
「どうします?」
矢鱈は腰袋から小瓶を取り出し、本当は凄いブロードソードの刃に中の液体をかける。
そして「これを槍に」と曽根崎に小瓶を渡した。
「これは……?」
「シヴァの涙だよ」
「えーーーーーーーーーっ!!」
シヴァの涙と言えば、レイドアイテムである。
レイドボスのシヴァからのみドロップするレア中のレア!
曽根崎の手が震える。
「や、矢鱈さん! こ、これはとてもじゃないけど使えないっす……」
「大丈夫、アイテムは使ってこそアイテム。便利なんだから使わなきゃ損だよ?」
「いやいやいや、それはそうっすけど!」
遠慮する曽根崎に、矢鱈は真剣な表情で
「いかなる時も、出し惜しみなし! プロになりたいなら、何があっても『死』は避けるべきだ」
と諭すように言う。
矢鱈がこのような表情を見せたのは初めてだった。
「矢鱈さん……」
曽根崎は小瓶を握りしめる。
「あざっす!!」
と叫び、クライヴォルグにシヴァの涙をかけた。
矢鱈は優しく微笑み
「それでいい、行くよ!!」
メルトゴーレムに向かって斬りかかった!
クライヴォルグに氷属性効果が付与され、槍がうっすらと冷気を纏う。
曽根崎が槍を振ると、冷気が帯となって軌跡を描き、氷の結晶がキラキラと輝く。
「す、スゲェーー!」
曽根崎はニヤリと笑い、矢鱈の後に続いた。
――D&Mカウンター岩。
「では、五階の左奥の扉はまだ入らない方が良いと思いますので」
「わかりました、じゃあ」
「お気をつけて~」
ふぅ、と溜息を吐く。
デバイスを覗き込むが、まだビューが使えない。
二人とも大丈夫かなぁ……。
どんな階層なんだろうか。
あー、気になるよーーー!
俺はダンジョロイドの埃を拭いながら、今か今かと待ちわびていた。
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