第27話 バック・ドアが開きました(後)
「くそっ! これじゃキリがない!」
曽根崎は攻撃を躱すと同時に、クライヴォルグを頭の上で回転させ、降り注ぐ冷気で熱から身を守っていた。
対峙するメルトゴーレムが動くたび、鎧のような岩から赤く燃えたぎった溶岩が覗く。
『オオオオオオ!!』
メルトゴーレムが唸り、両腕を振り下ろす!
ドシン! という音と共に天井から小石がパラパラと降ってくる。
その巨躯故に遅く見えがちな攻撃も、実際はかなりのスピード、しかも、攻撃の度に強烈な熱波が曽根崎に向けて発せられる。
曽根崎は攻めあぐねていた。
先ほどからある程度ダメージを与えてはいるのだが、ゴーレム系モンスの特性である自己修復能力により、一進一退の攻防が続いている。
「曽根崎くん、大丈夫?」
矢鱈が少し後方から声を上げた。
「大丈夫っす!!」と振り返り頷く。
曽根崎は自分にやらせて欲しいと、 矢鱈に頼んだのである。
ここで弱音を吐くわけにはいかなかった。
――いかなる時も、出し惜しみなし!
矢鱈の言葉が曽根崎の脳内で反芻される。
曽根崎の瞳に、赤く輝くメルトゴーレムの姿が揺らめく。
荒れ狂う灼熱の巨岩。その厚い身体は、まるで壁を相手に戦っているようだ。
――思い出せ。
曽根崎は矢鱈の一挙手一投足を思い返す。
あの、流れるような攻撃の中で何かヒントはなかったか?
メルトゴーレムの攻撃を躱しながら、冷静に打ち倒す方法を探る。
手持ち武器は甲賀手裏剣とクライヴォルグ。
属性効果のない甲賀手裏剣では意味がない。
なんとかクライヴォルグで連続攻撃を叩き込めれば……。
――ポンっ!!
突然、破裂音が響く。
後方からゴーレムの亀裂部分に、氷属性の付与された剣撃が飛ぶ。
矢鱈の援護射撃である。
それを見て曽根崎が閃く。
「……あ。矢鱈さん! あざっす!!」
曽根崎は、クライヴォルグの冷気を利用して、指が張りつきそうになるほど甲賀手裏剣を冷やした。
そして、メルトゴーレムから覗く赤い溶岩目掛け、クライヴォルグで手裏剣を打った。
「元笹塚中学四番を舐めるなよっ!!」
キーーーンッ!
甲高い音を上げ、手裏剣は氷の結晶を撒き散らしながら一直線に亀裂に刺さる。
ズドオォーーーォォンッ!!!
――水蒸気爆発。
凄まじい爆音と共に、メルトゴーレムの半身が木っ端微塵に吹き飛んだ。
そして、残った身体からは赤い核が顔を覗かせている。
「もらったあぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
曽根崎は放たれた黒い矢となり、一直線に核を貫く!
パアァンッ! というガラス玉が破裂するような音が響き、メルトゴーレムが崩れ落ちる。
赤い溶岩は霧散し、残骸が残される。本体は溶岩部分だったのだ。
「や、やったぁぁっ!!」
曽根崎はその場で何度も飛び上がって喜ぶ。
後方から矢鱈が駆け寄って
「凄いよ、曽根崎くん! いいもの見せてもらった!」と、肩を叩く。
「ありがとうございます、あの時、矢鱈さんがヒントをくれなきゃ、どうなってたかわかりません」
「ヒント?」
「ほら、援護射撃くれた時ですよ」
「あー、あれね、そっかあれで思いついたのか……」
矢鱈は感心したように頷いて
「それより、ほら」とメルトゴーレムの残骸を指をさす。
隙間に何か光っているのが見えた。
「ドロップ!?」
曽根崎は慌てて小岩を横によけていく。
大きな岩の隙間に、手のひら大の水晶が転がっていた。
「うひょ! お宝!?」
岩の隙間に手を入れ、水晶を引っ張り出した。
「「おぉ~」」
矢鱈と曽根崎は感嘆の声をあげる。
水晶は透明で、中に小さな炎が灯っているが、表面に熱はない。
「不思議なアイテムっすね~」
「これは僕も知らないなぁ。デバイスで解析した方がいいね」
「そうっすね、いやぁ、嬉しいなぁ!」
曽根崎は満面の笑みで水晶を腰袋に入れた。
「よし、先を急ごう」
「はい!」
二人は道を塞いでいたメルトゴーレムの残骸を乗り越えて、奥へ進んだ。
幅の広い洞窟が一直線に続いている。
「これなら意外とすぐに出られそうですね」
「うん、そうだね」
しばらく進むと出口らしき横穴が見えてきた。
「あ! あれ見て下さい!」
曽根崎が声をあげると矢鱈が
「ここで終わりみたいだね」と微笑む。
「はい、いやぁ本当にいい勉強になりました」
「ははは、僕は何もしてないよ。曽根崎くんの活躍のお蔭さ」
「いやぁ、へへへ本当っすか?」
洞窟内に転がる岩をジグザグに避けながら進む。
地面に水たまりができていて、滑りやすくなっている。
曽根崎はクライヴォルグをトレッキングポールの用に使って低い岩場を器用に越えた。
先に横穴に着いた曽根崎が
「あれ!? ここ多分、十五階っすよ? ほらあの大木」
と、指をさしながら振り返る。
「本当だ。あー、ここに繋がってるのか」
少し遅れてきた矢鱈は感心したように頷く。
「ショートカット的な感じですかね?」
曽根崎が尋ねると矢鱈が
「うーん、それにしては難易度が高い」と苦笑した。
その時、何かがササッと横穴の前を横切る。
「ん? 今何か黄色い物が……?」
曽根崎が首を傾げながら呟く。
「どうしたの?」
不思議そうな顔で矢鱈は訊いた。
「い、いや、疲れっすかね。ははは」
そう言って笑い、もう一度バッと後ろを振り返った。
しかし、何もない……。
「何やってんの? 大丈夫?」
「あ、あははは、じゃ、戻りましょうか」
曽根崎は笑って誤魔化し、二人は一階へ向かった。
――D&M、カウンター岩。
「あ! おかえりなさい!」
ダンジョンから矢鱈さんとリーダーが戻ってきた。
二人は汗だくだ。
「おう、お疲れ!」
「ジョーンくん、お疲れ様」
俺は急いで二人の麦茶をカウンター岩へ置く。
二人が麦茶を飲み干すのも待たずに
「どうでした? 何かありましたか? ヤバかったですか?」
と矢継ぎ早に質問を繰り出す。
リーダーが手の平を俺に向けて
「まあまあ、そう焦るなよジョーン」
そして、カウンター岩に肘をつき
「壮絶な戦いだったぜ……」と遠い目をした。
俺はリーダーをスルーして、矢鱈さんに訊く。
「矢鱈さん、どうでした?」
「おい! 聞いてんのか?」
リーダーが割って入ってくる。
「い、いや、だって長そうだったから……」
「わかった、わかった、ちゃんと話すから」
リーダーは胸を張って両手を腰に置き説明を始めた。
「まず、入ってすぐに草原タイプ、かなり広めでモンスは中位アンデッド系だったな」
「草原でアンデッド……? 珍しいですね」
「だろ? 俺も思った。で、奥に階段があって、氷原フロアになってる」
「氷原っすか?」
「ああ、めっちゃ寒かったっすよね?」
リーダーは矢鱈さんに同意を求めた。
「そうだね、凄く寒かったよ」と矢鱈さんは頷く。
「モンスはどうでした?」
「イエティだな。あ、そうだ! ユニークっぽいグランイエティのドロップから、バーメアスって魔人種が出たぞ。あれはヤバかった」
「魔人種ですか!?」
俺は思わずうわずった声を上げた。
「まあ、どうにか矢鱈さんのお蔭で切り抜けたんだけどさ~、いや、マジ矢鱈さん半端ない!」
リーダーは力を込めて言った。
う、羨ましい……。ああ、俺も行きたかったなぁ。
「いやいや、曽根崎くんも凄かったよ? なんたってGKを一人で倒しちゃったんだから」
「えっ!? GK?」
俺の鼓動が少し早くなる。
「おお、おめでと。三階にさ、メルトゴーレムが道を塞いでてな。そいつがGKだったんだ」
「メルトゴーレム! そんなモンスがついに出るように……」
俺は湧き上がる喜びを抑え、ダンジョンの成長を噛みしめる。
「あ、そうそう、これの解析を頼む」
リーダーは腰袋から水晶を取り出して、カウンター岩に置いた。
「凄い! こんなの初めて見ました……」
ダンジョン内で見つけたアイテムは、アイテムボックスに入れると、協会のデータベースで照合される。協会のデータベースは全国のダンジョンと直結しており、その中には、政府研究機関が共有した世界各国の情報も含まれる。故に、ほぼ全てのアイテムの解析が可能。ことダンジョンに関して人類は平和な協力体勢を築いていると言えるだろう。
では、誰も発見していないアイテムを見つけるとどうなるか?
これには、DP交換の方法と、データ提供の方法がある。
ダンジョンルールにもあるように、全てのアイテムはDPに交換が可能。
交換されたアイテムは、政府が所有管理する
また、データ提供の場合、所有権の放棄をしない代わりに、一時貸与という形で研究機関にアイテムを貸す。その代わりに返還の際、幾らかのDPが報酬として支払われるのだ。
※もちろん、得られるDPは交換した場合より少なく、アイテムによって変わる。
俺はリーダーのアイテムボックスに水晶を入れ、画面を見た。
矢鱈さんとリーダーが落ち着かない様子でカウンター岩の前をうろついている。
「でました!」
「でたかっ! 何て書いてある?」
リーダーがカウンター岩に乗り出す。
「えーと『
「「おぉ~!!」」
矢鱈さんとリーダーが揃って声を上げた。
「結構レアなアイテムですよこれ! 火じゃなくて炎ですし」
「ふふふ、苦労したかいがあった。使いみちに悩むなぁ」
リーダーは満足そうに頷いた。
「良かったね、クライヴォルグにはもう、氷属性付与が付いちゃってるから、別の武器に付ければいいんじゃない?」
「あ、そうだ! 本当にありがとうございます、何とお礼を言って良いのやら……」
リーダーはひたすら矢鱈に頭を下げている。
この感じは、さては何かレアアイテムでも貰ったのだろうか……氷属性が付いたとか言ってるし。
「ははは、いいよいいよ。それより、曽根崎くん。プロ志望なんだよね? 休みはまだあるの?」
矢鱈さんが確認するようにリーダーを見た。
「え? は、はい! 休みはあと三日ほどですが……」
戸惑いながら答えるリーダーに、矢鱈はそうかそうかと頷いて
「良かったら、僕と他のダンジョンも回ってみない?」と持ちかける。
「えーーーーーーーーーっ!!」
リーダーの叫び声で、うるさかった蝉が鳴き止んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます