第198話 ダンジョンのカタチ
リーダーが、まるで棒高跳びのように愛槍を地面に突き立てる。
ぐぐぐっと槍がしなり、勢いよく宙に舞い上がった。
「うぉおりやぁああーーーーっ!!!」
よし、俺もフォローに回って……!
周囲に絶え間なく出現する土エルフを片っ端から叩いていく。
「オラオラオラぁっ!!」
はぁ、はぁ、何か数増えてないか……?
そこかしこで、皆が対応に追われている姿が目に入る。
すでにリーダーは岩の台座の上でオベロンと交戦中だ。
台座に土エルフが群がり、上へ昇ろうとしている。
「させるかぁ!」
少しでもリーダーの時間を稼がないと……!
土エルフをたたき落としながら台座の周囲を回っていると、戦っていた花さんと背中合わせになった。
「花さん! 大丈夫⁉」
「はいっ、なんとか……」
「時間を稼げばリーダーが倒してくれる、それまでは持ちこたえよう!」
「了解です! でも、ジョーンさん、あのオベロンはそこまで強くないはずです」
「え?」
「私が読んだ文献によれば、オベロンの攻撃はどれも世界樹の強力な生命力を使ったものでした……あそこにいるのはレイズ・オベロン、アンデッドです!」
「――シュッ!」
『ギギッ、ギギャッ!』
「ごめん、それってどういうこと⁉」
と、俺は土エルフを倒しながら花さんに聞き直す。
「オベロンは本来なら、世界樹の守り手であるエルダーエルフの軍隊を召喚するんです! でも、このレイズ・オベロンは低位種である土エルフしか召喚できません! これは私の推測でしかないのですが……あれは本当に存在するモンスではなく、オネイロスを使って運営が偽装した別のモンスの可能性が高いです!」
「……⁉」
そんなことが可能なのか⁉
でも、地形や街並みだって再現できるんだ……モンスを別の姿に変えることだって出来るはず。むしろ、なんで思いつかなかったんだ……⁉
まてよ? てことは、D&Mのウツボハスとかスライムみたいな低位種をダミーで高位種にして、最下層手前に配置しておけば……ダイバー達をミスリードさせることも可能だよな……。
他にも、全モンスをラキモンに変えて、ラキモン祭り的なイベントも……。
すごい……やっぱすげぇ!
着眼点が変わるだけで、アイデアがどんどん湧いてくる!
――その時、台座の上から凄まじい爆発音が轟いた!
「や、やったか⁉」
「リーダー!」
「曽根崎くん……!」
パラパラと振りそそぐ小石を避ける。
同時に、土エルフ達がドシャッと土塊に還った。
「やった……?」
見あげると、台座の上でリーダーが大きく手を振っていた。
「やった! リーダー! やったぁ!!」
「やりましたね! ジョーンさん!」
他のプレイヤー達からも賞賛の声が上がる。
『ラキィ! やったねダンちゃん!』
いつの間にかラキモンも側で跳ねていた。
「ちょ、どこ行ってたんだよ?」
『もう飽きちゃったラキ、戻るラキね。アレ、忘れないでラキよ?』
「あ、おい……」
そう言って、ラキモンはアイテムボックスに戻ってしまった。
まあ、戻ってくれて良かったな。
探さなくて済んだし……帰ったらたっぷり瘴気香をやるか。
――ファーーーン!
大きな効果音が響いた。
『――PLAYER:tatsuo sonezakiが
「「ええっ⁉」」
パッと周囲の風景が切り替わる。
一瞬で俺達は、あのパーティー会場に戻っていた。
「ど、どうなってんの……⁉」
辺りは騒然とし、俺も花さんも、リーダーも紅小谷も、あめのまさんでさえ、ただ、呆然として立ち尽くしていた。
バンッとスポットライトがステージに当たる。
そこには、ラフな格好のニコラスさんが海外の企業発表会でよく見るようなプレゼンスタイルで立っていた。
「ハーイ、皆様、たいへんお疲れサマでした。こんなサプライズになってしマッテごめんナサイね。実際に体験してもらうのがイチバンだと思ったからデス。オネイロスの可能性と弊社の開発した『Brave New World Link』、それを利用した新たなダンジョンのカタチ……。今回も私たちは、殆ど移動してまセン。ここは伊豆諸島にある小さな島デス。おわかりいただけましたでショウか? 可能性は無限デス――」
ニコラスさんの背後にあるスクリーンに資料が表示される。
「ダンジョン経営者のミナサンをお呼びしたのには、ワケがあります。コノタビ、我が社は画期的な技術である『Brave New World Link』、こちらの一般提供を開始することに決定しまシタ」
「「おぉ……」」
ざわめきが起こる。
無理もない……コストにもよるが、これは大変なことだぞ。
オネイロスは、あくまで表面上の演出をカスタマイズするにとどまる。
だが、この技術は他から移設したコアを定着活性化させるというものだ……。
現時点では、あのダンクロでさえ、コアの移設に四苦八苦している状況。
コアの移設が容易になれば、それこそ業界に大激震が走る。
パッと思いつくだけで、古い休眠ダンジョンを安く買い、この技術を使えばあっという間に現役で通用するダンジョンへ早変わりするだろう。廃業したダンジョンから不活性コアを回収して転売なんてことも……。
転売も加速するだろうし、廃テナントや駅前マンションを買い上げられるような資金が潤沢なファンドや大手企業なら、もはやダンジョンの立地を選べるような時代がくるんじゃ……?
「私タチの使命は……エンタテインメントを限りなく身近にすることデス。この技術で世界中のミナサンの笑顔がミタイのデス……よって、こちらのサービスはサブスクリプションでの提供を予定しておりマス!」
スクリーンに『毎月……100,000DP』と表示された。
「10万DP⁉ 破格だな……」
「おい、すぐに都内の休眠ダンジョンを押さえとけ」
「ウチのコアを……」
「ああ、俺だ。すぐにCtoCでコアの取引ができるサイトを……ああ、予算……」
一斉にフロアのダンジョン経営者達が動き出す。
さすがだ……。あ、会長はどうしてるかな?
見ると、会長は顎に手を当て、難しい顔をして何やら考え込んでいた。
恐らく、頭の中でソロバンを弾いているのだろう。
「ジョンジョン、大変なことになったわね」
「うん、まあ、でも……俺は金が目的じゃないし、そもそもウチはオケアノスだからこの技術が使えないかも」
「そういうとこだけは、しっかりしてんだから」
紅小谷がフフッと笑みを浮かべた。
ニコラスさんが続けた。
「さて、ミナサマいろいろとお考えもあるでショウ。このサービスにご興味のある方は弊社スタッフから個別で詳細をご案内いたシマス。では、オイシイお食事をご用意しまシタ、どうぞお楽しみくだサイ。それでは、本日はありがとうございマシタ、また、お会いしまショウ――」
拍手が沸き起こる。
ニコラスさんは、それに応えながらステージを降りていった。
俺達は用意された立食形式の豪華な食事に我先にと群がった。
あめのまさんもすっかりみんなと打ち解けて、いっしょに食事を楽しんでいる。
「しかし、これは当分荒れるだろうな……」
あめのまさんが、ボソッと言う。
「え⁉ そうなの⁉ 鈴音、なんで?」
リーダーが骨付き肉を囓りながら目を見開く。
紅小谷は少し頬を赤らめながら答えた。
「まあ……そうなるわね。一番は他業種からの新規参入、資本だけ持った転売目的の企業が厄介かも。彼等は何も残さないし、最初から残すつもりもないわ」
「でも、一概にそれが間違ってるとも言えないからなぁ」と、あめのまさん。
「そうね……でも、これは私の主観だけど、この業界、お金が目的の人って少ないんじゃない? だからそう簡単に転売が横行するとも思えない」
「ふぅん……。さんダの管理人が言うと説得力があるね?」
「あ、いえ、偉そうなこと言っちゃってごめんなさい」
「よくわかんないけどさ、鈴音は間違ってないと思うぜ?」
「もう、なんなのよ、その自信は……」
謎の自信に満ちあふれるリーダーを見て、紅小谷がクスッと笑う。
うーん、思ったよりもこの二人……距離が近いよな。
やっぱり付き合ってんじゃないのか……?
「ジョーンさん、あの二人、良い感じですね」
花さんが俺にそっと耳打ちをしてきた。
「いいなぁ……」
「えっ⁉」
「あ、いえ、その……紅小谷さんが楽しそうだったので……!」
花さんがあわあわしながら両手を振る。
「そ、そっか! そうだよね……あはは」
うわぁ……なんか俺、自意識過剰な奴って思われてたらどうしよう⁉
もっとクールに……落ち着け、大人の余裕を……。
「ヘイ、ジョーン!」
陽気な声に振り返ると、そこにはニコラスさんが立っていた。
「ハハハ! ジョーン! お元気でしタカ?」と、ハグをされ、
「お、オーケィ、オーケィ!」と訳の分からない返しをしてしまう。
「ジョーンも見てくれましタカ?」
「はい、でもウチ、オケアノスなんで……」
「オゥ、それは残念……まだ対応してないヨ」
「でも、すごく楽しかったです! モンスを別のモンスに仕立てるアイデアはマジで最高でした!」
「ワォ! みんな喜びマース! ありがトウ! ありがトウ!」
ニコラスさんと握手を交わす。
俺の後ろで紅小谷が声を殺しながら、
「ちょっと、ジョンジョン、紹介しなさいよ!」と俺を肘でつつく。
「あ、ニコラスさん、僕の友人の紅小谷です。さんダの管理人をやってるんですよ」
「さんダ⁉ オー! 知ってマス、知ってマス! プリティね!」
「ありがとうございます――」と、紅小谷はお辞儀をして、
「Nice to meet you, Nicholas. I'm Benikoya, the administrator of 'sanda' I feel greatly honored to have this opportunity to witness such remarkable technology firsthand. If you don't mind, I would be delighted to have the chance to interview you sometime...」と、流暢な英語で続けた。
「Oh, your English is excellent. Certainly, I'd be happy to do an interview. If you could give me your business card, I'll have my staff contact you.」
え……紅小谷って英語できるんだ……。
「ねぇ……花さん、何て言ってるかわかる?」
「えっと、取材させて欲しいって、ニコラスさんがいいよって言ってます」
「へぇ……」
ていうか、花さんもやっぱり凄いな。
もしかして、わかってないの俺だけだったりして……。
「じゃあ、そういうことで。ジョーン! またネ!」
「はい、また! ぐ、グッバイ……!」
俺は精一杯の英語を使ってみたが、このあと、めちゃくちゃ後悔した。
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