叔父さんのダンジョン編
第199話 叔父さんのダンジョン
予想通りというべきか、ニコラスさんの提案『Brave New World Link』は業界に大きな波紋を呼んだ。
コアの移設が容易になる――、それは革命に近いインパクトを持つ。
イベント翌日の株式市場では、ダンジョン関連銘柄は軒並み暴騰を見せ、先導株であるダンクロ・ホールディングスは連日のS高となった。
それに伴い、実体経済の面でも大きな動きがあった。
その強引な手法に、国内外から批判の声が上がっていたが、
*CCO……最高顧客責任者
そんなこんなで、世間は大変賑わっているのだが……。
俺はと言えば、当然、そんな
「えっと……染め物の準備はOKっと」
あとは、トイレの備品もチェックしておかないとな……。
――ブブブブ……。
ん? 誰だろう?
ポケットの中でスマホが震える。
取り出して表示を見ると、電話は母さんからだった。
『ジョーン? いまお店?』
「うん、そうだけど……」
『あのさぁ、あんたタケオ叔父さん覚えてる?』
「えー……っと、あ! もしかして、毎年クワガタくれてた人?」
『そうそう、クワガタの叔父さん、でね? 叔父さんがあんたに相談したいことがあるっていうのよ』
「お、俺に⁉」
いくら親戚と言っても、小さい頃の話だし……クワガタのインパクトが強くて、叔父さんのことは顔も覚えていない。
『まあ、どうせ大した相談じゃないと思うから。ジョーン、叔父さんのとこ覚えてる?』
「たしか、峰山の方だよね?」
『そ、今日のお昼に行かせるって言ってあるから、悪いけど頼まれてくれない?』
「ちょ⁉ そんな急に言われても……」
『ごめん、ほら、いま
「あっ……! ったく、いっつもこれだもんなぁ……」
まあ、叔父さんにはクワガタもらった恩もあるもんなぁ。
今日は昼までにして、叔父さんのところに行ってみるか。
やれやれ……。
* * *
俺は原付に乗って、峰山の叔父の家へと向かった。
「たしかこの辺だったと……」
辺りを見回していると、駐車場のところで手を振る男性の姿が見えた。
「あ、たぶんあの人だ……」
顔はハッキリと思い出せないが、直感的に叔父さんだとわかった。
俺は原付を駐車場に停めて、叔父さんの元へ向かう。
「こんにちはー」
「やあやあ、ジョーン……くん?」
叔父さんは恐る恐るといった感じで俺の顔を伺う。
「あ、はい、そうです、ジョーンです。お久しぶりです」
『いやぁ~……おおきぃなってもうて……何食うとんな自分、えぇ?』
(訳:やあ、久しぶりだね。立派になって見違えたよ)
「いやいや、母さんから聞いて来たんですけど、何か僕に相談があるとか?」
『そうなんよ~、ほら、ここやとあれやけん、そこの喫茶店いくな?』
(訳:そうなんだよ、でもここだと何だし、そこの喫茶店に入ろうか?)
俺は叔父さんに誘われ、喫茶店に入った。
叔父さんはアイスコーヒーを二つ頼み、大きくため息をついた。
『ほんま、どうしょうか思て……嫁はんと子供、出てってもうたし、ダンジョンやって、買うたんはええけどおっちゃんには荷が重ぅてなぁ……何やねんデバイスっちゅうて……わけわからんわ』
(訳:本当、大変でね。家族にも愛想尽かされてしまって、ダンジョンを買ったものの、私にはとてもじゃないけど管理ができないんだ)
「ちょ、叔父さん……あの、もうちょっと経緯というか、何がどうなってるか教えてくれないと……」
『ああ、ほぅか、そらそうやわな。何から説明したらええんか……ジョーンくん、おっちゃんが虫好きなん知っとるやろ?』
「ああ、はい。毎年クワガタくれてましたもんね」
『おぉ! 覚えとんな⁉ あれはええクワやでぇ……いや、それはどうでもええわ。そう、虫好っきゃろ? それがエスカレートしてもうて……5年前かのぉ、こんまいダンジョン買うたんよ、虫がぎょうさん出るゆうけん』
(訳:覚えてくれてたんだね。あれは良いクワガタだったよね。いや、それよりも叔父さんは虫好きでしょ? だからそれがエスカレートして、五年前に小さなダンジョンを買ったんだ。何でも虫が出るって話だったから)
「虫が出る?」
『そやで、虫系モンスしか出んダンジョンや』
「珍しいですね……」
『そうなん? おっちゃん、詳しいことわからんけど、たしかに中で虫しか見てないわ……』
虫系特化のダンジョンか。
上手くやれば流行りそうだけどなぁ……。
ただ、虫系モンスは比較的討伐難易度が高くて、個体数も多い傾向がある。
相性も難しそうだし、なかなか一筋縄ではいかないだろうな。
『ほんだけん、ダンジョンに入り浸るようになってしもてな……気ぃついたら実家がもぬけの殻や、じょんならんでホンマ……』
(訳:それでダンジョンに入り浸るようになって、気付いたら実家に誰もいなくなってしまった。やりきれないよ)
「……でも、経営されてたんなら」
『あー、ちゃうちゃう、ちゃうで! おっちゃんの完全趣味や、趣味でやっとったんよ』と、叔父さんが被せるように言った。
「そうなんですか⁉ それは……なんとも……」
『だけん、ジョーンくん、おっちゃん、もう虫やめよう思て。一人は嫌なんよ……。ホンマこんな無理言うてごめんやけど……おっちゃんのダンジョン、もろてくれん?』
(訳:だからジョーンくん、叔父さんはもう虫は卒業する。無理を言って悪いんだけど、叔父さんのダンジョンをもらってくれないか?)
「え……?」
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