第51話 バカンスです。
「あー、てってって……」
頭がガンガンする。ちょっと呑み過ぎたかな?
俺は布団から出て、台所でおにぎりを食べたあと、頭痛薬を飲んだ。
「よし、早くしないと」
支度して、頭痛を堪えながらダンジョンへ向かう。
あれから皆で打ち上げをしたのだが、盛り上がり過ぎて、ついつい酒が進んでしまった。
調子に乗ると駄目だな…‥。
荷物をカウンター岩に置いて、デバイスを確認する。
「さあ、どうなっているのか……」
笹塚時代のレイドでは、綺麗さっぱり元通りになっていたが。
見ると、十六階層が残っている!
「おぉ! やった!」
しかし、フロアには何もなく草一本生えていない。
「ここを、どう使うかが腕の見せ所だぞ、うん」
他のフロアも確認していく。
「ん?」
何やら違和感を覚えた。
「んー……?」
何だろう、この違和感は?
何度もビューを見ながら考える。
画面には八階の五徳猫が通路で寝っ転がっていた。
「しかし良く寝るよなぁ……」
――そうだ! 寝てるんだ!
CLOSE中なのでモンスが寝てて当たり前。
けれど、いつもは大人しくなるだけで、寝ていない虫系、バルプーニなどの凶暴な魔獣を始め、ダンジョン中のモンスというモンスが寝ている! ラキモンまでぐっすりと!
これが異常な事態だと気付くまでに、少し時間がかかった。
「や、ヤバくない、これ?」
俺は急ぎ協会サイトの〈よくある質問〉のページを読む。
うーん、同じ様な質問は無いか……。
念のために、デバイスをOPENに切り替えてみた。
しばらく待ってみても、モンスが起きない!
これは不味いぞ、すぐにCLOSEに戻してスマホで検索をした。
┏━━━━━━━━━━━┳━━┓
┃モンス 起きない ┃検索┃
┗━━━━━━━━━━━┻━━┛
すると、興味深い記事がヒットする。
〈総合質問サイト 教えテルミー!〉
2015/10/16 10:13
質問:ぬぁ
レイド後にモンスが起きない!
なんで? 死ぬの?
2016/12/24 21:22
回答:小野寺正隆
誰も答えないようなので小生が。(^^ゞ
それはレイド後、まれに起きる現象で、レイドバカンスと呼ばれています。
イギリスのある研究機関が発表した論文には、レイド発生時、ダンジョンコアへ過度な負荷がかかり、一時的にコアが回復作業に入る可能性あると指摘されています。
回復には2~3日かかる事が多いそうなので、しばらく様子を見られてはいかがでしょうか?
2017/02/12 03:32
Re:イブの夜にわざわざありがとうございました。
※この回答はアンサー認定されました。
2017/02/12 03:35
Re:いえいえ。それは構いませんが……、質問者様の『イブの夜にわざわざ』という部分に違和感を覚えました。世俗の固定観念を面識のない、しかも質問の回答者に、決めつけたようなレスを返されるという事について、ぬぁ様は一体、どうお考えになっているのか、甚だ疑問です。小生がイブの夜に一人寂しく教えテルミーの答えを書いていたとでも言いたいのでしょうか? 仮に、万が一そのような状態で、小生が回答していたとして、ぬぁ様に何のご迷惑を掛けたのか? 感謝されるならまだしも……(この後永遠と続く)
な、なるほど。
ちょっと荒れてるみたいだけど……。
俺は一応、紅小谷にも聞いてみることにした。
緊急事態故に直電を決行する。
紅小谷はすぐに電話に出た。
『……え?』
「あ、もしもし? 昨日はお疲れ様」
『……何なの?』
明らかに寝起きの声、なるべく機嫌を損なわぬように穏やかなトーンで話しかけた。
「あのねぇ、レイドの後にねぇ、モンスがさぁ、起きないのって知ってるかなぁ?」
『その気持ち悪い喋り方止めないとぶっ殺すわよ?』
「ご、ごめん!」
や、ヤバイ。怒らせてしまった。
『……ふぅ(溜息)モンスが起きないのね?』
「あ、うん。そうなんだ、OPENにしても起きなくて……」
『レイドバカンスね。二、三日で戻るけど、営業は無理』
「え……」
『仕方ないわ、どうしようもないもの』
「そうか……起こしてごめん」
『まあ、今回は許すわ。いい機会だから他店調査でもしてくれば?』
そうか、そういう考え方もあるな……。
「うん、わかった。ありがとう」
『じゃ、またね』
電話を切って、俺は大きく溜息をついた。
レイドバカンス……。
「よしっ!」
こういう時は切り替えが大事だよな。
さっそくレイドバカンスの為、三日間休む旨をサイトにて告知した。
他店調査か……ちょっと遠出してみるかな。
俺は各フロアの点検を済ませて、細かな後片付けや、清掃を終わらせた。
しかし、見事に寝てたな……。
念のために、昔使っていた青いビニールシートで入口を覆っておく。
「よし、これで大丈夫かな」
実家の部屋に戻り、これからの計画を練る事に。
布団の上に座り、さんダで他のダンジョンを色々と調べる。
※さんダはダイバー御用達の巨大サイト、管理人は紅小谷。
「うーん、どーすっかなぁ……」
十六階が手付かずの更地、ってことは俺好みのフロアに出来るという事だよなぁ。うーん、ケットシーたちに場所を移ってもらって、まるごと猫型モンスフロアに。
いやぁ、それはちょっとなぁ。
色々と考えながら、サイトを流し見していく。
有名どころのダンジョンには固有のボスがいたりして、目玉になっている所が多い。
ボスねぇ……。
D&Mにはボスらしきボスは発生していない。
強いモンスを召喚したところで、復活に制限がかかるし……DPもバカ高い。
ロードもあれから見てないし、もう復活は打ち止めかなぁ。
俺はメモ帳をめくって、書き留めていたフロア別のモンス構成を眺める。
ケルロスさえ成長してくれれば、一気に上位種のケルベロスになるんだが……。
しかし、どうやったら成長してくれるんだろう……。
時間が経つのを待つしかないのか?
「考えても仕方ない!」
布団から立ち上がり、ともかく他店調査に行くことにした。
実は前から一度、行ってみたかったダンジョンがある。
――大妖、九尾のいる伏見ダンジョンだ。
九尾の狐(上位種)は、幻覚攻撃が有名で狐火を操る強力なモンス。
噂に寄ると、ドロップアイテムは二種類あって、小狐丸……★★★(イベントクラスの刀)と朱玉がランダムで落ちるらしい。
俺の目当ては朱玉の方だ。
朱玉は開運アイテムと持て囃されるほどの人気アイテムで、テレビなどでも良く取り上げられている。決して妄信しているわけではないが、自分で商売をしていると、縁起物に惹かれてしまうのだ。
よし、伏見に行ってみるか!
俺はお出かけ用のとっておきTシャツの封印を解く。
ベリベリとビニールからTシャツを取り出して広げた。
これは、海外通販で買った〈ロンドンダンジョンエクスポ2000〉会場限定発売のスタッフTシャツであるっ!
まさか袖を通す日が来ようとは……。
着替え終わって鏡で見る。
「か、カッコよすぎる……」
上機嫌で一階へ降りて、爺ちゃんに
「ちょっと京都行ってくる」と言った。
「おう、気をつ……え?」
爺ちゃんが驚いた顔で俺を見る。
「きょ、京都!?」
「うん、伏見ダンジョンに行くんだよ」
「そ、そうか……。お前はいっつも突然じゃのぉ、気をつけないかんぞ?」
「わかった、じゃあ行ってくる」
心配そうな爺ちゃんを置いて、俺は高松駅に向かった。
「電車とか久しぶりに乗るなぁ」
俺は、快適マリンライナー岡山行に乗りこんだ。
大瀬戸大橋を渡り、揺られること一時間、岡山に到着。
新幹線のぞみん東京行に乗り換えて、目指すは京都。
乗り換えホームに着く。
「京都までは時間あるし、腹減ったなぁ」
俺は売店で駅弁を買うことにした。
いやぁ、久しぶりに旅行気分で楽しい。ずっとダンジョンだったからなぁ~。
新幹線に乗りこみ、座席でさっそく駅弁を開ける。
弁当は普通の幕の内弁当を買った。
俺は意外と食に関しては保守的なのだ。
「んー、うまい!」
窓の外に流れる美しい景色を見ながら!
と、言いたいところだが、発車後数分で食べ終えてしまう……。
お茶を飲みながら、時間を持て余していると、ようやく自然の景色が流れ始めた。
「おぉ!」
俺は胸を踊らせる。
期待通りの美しい景色、知らない場所へ行く高揚感。
目に映る色彩が、いつもより鮮やかに感じんねん。
待っててや! 京都!
伏見まで、あと……一時間弱や!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます